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最低賃金は、「時給がいくらになるか」という数字だけの話ではありません。
それは、働く人が生活を維持するための最低限の賃金水準を、法律によって保障する仕組みです。
2026年度は、47都道府県すべてで地域別最低賃金が引き上げられます。厚生労働省が2026年9月3日に公表した答申では、引上げ額は都道府県ごとに54円から65円、全国加重平均は1,177円となり昨年度の1,121円から56円の引上げです。改定額は、2026年10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定です。
最低賃金は、すべての賃金問題を解決する制度ではありません。
しかし、働く女性の生活、キャリア、家計、社会保障、そして「どのように働くか」という選択を考えるうえで、非常に重要な基準です。
今回は、女性の視点から最低賃金を7つの課題に分けて考えます。
地域によって最低ラインが違う
最低賃金の第一の課題は、地域差です。
日本の地域別最低賃金は、全国一律ではありません。各都道府県に一つずつ定められ、地域の労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力などを考慮して決定されます。
賃金改定後の全国加重平均は1,177円です。最高額は1,280円、最低額は1,085円となります。最高額と最低額の比率は84.8%で、前年の83.4%から改善しました。
つまり、「最低賃金が上がった」というニュースだけでは、自分の暮らしがどう変わるのかまでは分かりません。
住んでいる地域によって、働くことで得られる最低限の収入水準が異なる。これは、地方で働く女性の仕事選びや生活設計を考えるうえでも確認しておきたいポイントです。
「月給」でも最低賃金を確認できる
会社員の場合、最低賃金は「時給制の人だけ」のものではありません。月給制でも、最低賃金額と比較するために、対象となる賃金を1時間当たりの金額に換算します。
基本的な計算方法として月給制の場合は、原則
最低賃金の比較対象となる月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間
で1時間当たりの賃金を計算し、その金額が地域別最低賃金以上かを確認します。
例えば、最低賃金の比較対象となる月給が20万円、1か月平均所定労働時間が160時間なら、 200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円となります。
ただし、ここで重要なのは、給与明細に書かれている総支給額をそのまま割ればよいわけではないことです。 通勤手当、家族手当、精皆勤手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与など、最低賃金の計算から除外される賃金があります。
そのため、 「月給÷160時間」ではなく、「最低賃金の比較対象となる賃金÷1か月平均所定労働時間」という考え方を説明するのが正確です。
女性の短時間労働と最低賃金
女性と最低賃金を考えるうえで、短時間労働は重要なテーマです。
厚生労働省の2025年「賃金構造基本統計調査」では、短時間労働者の1時間当たり賃金は、男女計1,518円、男性1,769円、女性1,418円でした。
また、総務省の2025年平均の労働力調査では、非正規の職員・従業員は男性678万人に対して女性1,450万人でした。
女性の非正規雇用については、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」を理由とする人が218万人、「家計の補助・学費等を得たいから」を理由とする人が285万人でした。
ここで大切なのは、短時間勤務や非正規雇用を一括して「問題」と捉えないことです。
働く時間を調整できることが必要な女性もいます。
一方で、働く時間を短くせざるを得ないことと、本人が望んで短時間で働いていることは同じではありません。
最低賃金を考えるときには「どのような働き方を選べるのか」という視点も必要なのです。
最低賃金と「年収の壁」
最低賃金が上がるとき、もう一つ確認したいのが税・社会保障制度との関係です。
最低賃金そのものは賃金の最低額を定める制度ですが、働く時間を増やした場合には、税や社会保険など別の制度も関係してきます。
中央最低賃金審議会の議事録でも、最低賃金の上昇に伴って、いわゆる「年収の壁」を意識した就業調整が行われることについて議論されています。
ここで注意したいのは、「最低賃金が上がれば、必ず手取りが同じ割合で増える」とは限らないということです。
「賃金、労働時間、税、社会保険」は、それぞれ異なる制度です。
女性が働き方を決めるときには、時給だけではなく、年間収入と社会保険などを含めた全体像を見ることが重要になります。
「最低賃金以上」でも安心とは限らない
最低賃金制度は、労働者に最低限の賃金を保障するための制度です。
企業は、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず、労使双方が合意して最低賃金未満の金額を設定しても、その部分は法律上無効となります。
地域別最低賃金を下回った場合には、最低賃金法上、50万円以下の罰金が定められています。
ただし、「最低賃金以上だから、その仕事の待遇として十分である」とまでは言えません。
最低賃金はあくまで法律上の最低ラインです。
その上には「職種、経験、資格、責任、勤続年数、役職など」に応じた賃金設計があります。
最低ラインを守ることと、働く人の能力や責任に見合った報酬を設計することは、別の課題なのです。
企業側にも賃金設計が必要
最低賃金の引上げは、働く人だけの問題ではありません。
企業にとっても、給与体系を確認する機会になります。
47都道府県すべてで最低賃金が引き上げられ、引上げ幅は54円から65円です。全国加重平均では56円の引上げとなり、2025年度の66円に続く大幅な引上げとなりました。
最低賃金付近で働く人だけを引き上げればよいのか。
それとも、経験や役割の違いに応じて、企業全体の賃金体系を見直すのか。
最低賃金の改定は、企業が「人にどのような価値をつけ、どのように報いるのか」を考えるきっかけにもなります。
特に女性の多い職場では、単純な一律引上げだけではなく、職務や経験に応じた賃金設計を考えることが重要です。
「最低賃金を知ること・権利を守ること」
10月より執行される全国加重平均は1,177円となり、47都道府県すべてが対象です。地域別の最高額と最低額の差も、比率で見ると前年より改善していますが、最低賃金について知っておきたいのは、金額だけではありません。
・自分の勤務地に適用される最低賃金はいくらなのか。
・いつから新しい金額が適用されるのか。
・地域別最低賃金なのか、特定最低賃金なのか。
そして、もし最低賃金を下回っている可能性がある場合、どこに相談すればよいのか。
最低賃金は、会社と個人の「交渉材料」というより、法律によって定められた最低限の基準です。
最低賃金は「働く」を支える基準
最低賃金について考えるとき、私は「いくらまで上がったか」だけで終わらせないことが大切だと思います。
最低賃金は、すべての賃金格差を解消する制度ではありません。
しかし、働く人にとって「これを下回ってはいけない」という法的な基準が存在することには、大きな意味があります。
そして、その基準を知ることは、自分の給与を確認することにつながります。
自分がどの地域で、どのような雇用形態で、どのくらい働き、いくら受け取っているのか、その数字を自分自身で理解できれば、働き方を選ぶときの土台ができます。
女性の経済的自立とは、単に収入を増やすことだけではありません。
自分の労働に「どのような価値がついているのか」を知り、その数字をもとに人生を選択できること。
最低賃金という制度は、そのための「最低ライン」を社会として定めている仕組みです。
10月からの賃金改定を、単なる時給アップのニュースとして見るのではなく、私たち一人ひとりが「働くことの価値」と「自分の生活をどう設計するか」を考える機会として捉えていきたいと思います。
