家を借りる。契約をする。新しい場所で生活を始める。
こうした人生の節目で、突然現れるのが「保証」という仕組みです。
私は、女性の経済自立やライフデザインについて考えるなかで、お金や仕事だけでは説明できない「生活へのアクセス格差」があると感じています。
その一つが、「頼れる家族や親族がいること」を暗黙の前提にしてきた社会の仕組みです。
単身で暮らす女性、家族との関係が薄い人、離婚や死別を経験した人、親が高齢になった人など、生き方が多様化すればするほど、「保証してくれる人がいるかどうか」が人生の選択肢を左右する場面があります。
保証人制度を考えることは、契約の問題だけではありません。
「人は誰かに頼れなければ、自立できないのか」。
この問いから、これからの女性の自立について考えてみたいと思います。
自立と保証の矛盾
「女性の自立」という言葉はよく使われます。
自分で働き、自分で収入を得て、自分で住む場所を選び、自分の人生を決める。
ところが実際には、一人で生きようとした瞬間に「保証人はいますか」と聞かれることがあります。
ここには少し不思議な矛盾があります。
経済的には自立していても、契約の世界では「第三者から信用を補完してもらうこと」を求められる場合があるからです。
もちろん、貸す側やサービスを提供する側にもリスクがあります。
だからこそ重要なのは、保証そのものを否定することではなく、「家族の存在」と「その人自身の信用」をできるだけ切り離して考えることだと私は思います。
家族が信用になる社会
これまで日本社会では、家族がさまざまなリスクを引き受けてきました。
病気になったとき、失業したとき、介護が必要になったとき。そして契約上の保証が必要になったときもそうです。
しかし、未婚化や単身世帯の増加、家族関係の多様化によって、「親や配偶者が支えてくれる」という前提は現実と合わなくなりつつあります。
女性が生涯を通じて一人で暮らす可能性も、決して特殊な人生ではありません。
そう考えれば、家族がいる人ほど契約しやすく、そうでない人ほど不利になる社会は見直す必要があります。
自立を推進するのであれば、自立した人が家族関係の有無によって不必要に不利にならない仕組みも同時に整えるべきなのです。
保証会社という選択肢
賃貸住宅の分野では、家賃債務保証会社を利用する仕組みも広がっています。
国土交通省には家賃債務保証業者の登録制度があり、2026年8月13日時点で123事業者が登録されています。
これは、「家族や知人が保証する」という仕組みから、一定の費用を支払い、サービスとして保証を利用する方向への変化とも捉えられます。
私は、この変化には大きな意味があると思っています。
人間関係に依存していた機能を社会サービスとして提供できれば、「頼れる親族がいないから契約できない」という問題を減らせる可能性があるからです。
一方で、利用料金や審査、契約内容などについて利用者が十分理解できる仕組みも欠かせません。
「保証人が不要になった」で終わるのではなく、保証サービスそのものの透明性まで考える必要があります。
保証にも上限がある
保証という言葉には、「何かあったら全部責任を負う」という非常に重い印象があります。
実際、2020年4月に施行された改正民法では、賃貸借契約などにおいて個人が一定範囲の不特定の債務を保証する個人根保証について、責任を負う上限である「極度額」を定める仕組みが導入されています。
これは保証人を守るための重要な考え方です。
私はここに、「責任には境界線が必要」という社会設計の基本を見ることができます。
家族だから。
親しいから。
助けてもらったから。
こうした感情と、法的な責任は別のものです。
善意を無制限な責任に変えないことも、成熟した社会には必要なのです。
女性の孤立と契約問題
保証の問題は、とくに社会的に孤立している人ほど大きくなります。
家族との関係が良好な人にとって、「保証人を一人お願いする」という行為は、それほど大きな問題ではないかもしれません。
しかし、家庭内暴力から離れた女性、家族と疎遠になった女性、親族を頼れない女性にとっては事情がまったく異なります。
つまり保証人という条件は、人によって負担の大きさが違うのです。
社会制度を考えるときには、「普通ならできる」という言葉に注意しなければなりません。
その「普通」から外れた瞬間に生活そのものが難しくなるのであれば、それは個人の問題だけではなく、制度設計の問題でもあります。
信用は人間関係だけではない
これから必要なのは、「誰を知っているか」だけではなく、「その人自身をどう評価するか」という信用設計です。
収入、雇用状況、資産、支払い履歴など、信用を判断する材料はさまざまあります。
ただし、データだけで人を判断すればよいという話でもありません。
病気や離職、育児、介護など、人生には一時的に経済状態が変化する時期があります。
特に女性はライフイベントによって収入や働き方が変化することがあります。
一時点の数字だけで「信用がない人」と評価してしまえば、再出発の機会まで奪いかねません。
信用制度に必要なのは、精密な審査だけではなく、「人生には変動がある」という前提なのです。
保証を社会インフラへ
私は、保証をもっと「社会インフラ」として考えてよいと思っています。
住宅、就労、金融、福祉。
人生の重要な場面へのアクセスが、個人的な人間関係の豊かさだけで決まらない社会をつくることです。
行政、金融機関、不動産事業者、保証事業者、福祉機関などが連携できれば、「保証人がいない」という一つの理由だけで生活基盤から排除される人を減らせる可能性があります。
そして、これは女性支援だけの問題ではありません。
高齢者、若者、外国人、障がいのある人、家族を頼れない人など、多くの人に共通する課題です。
女性の課題から制度を見直すことで、社会全体の使いやすさが上がることは少なくありません。
「頼れる人」より仕組みを
人とのつながりは大切です。
困ったときに支えてくれる家族や友人がいることは、大きな財産だと思います。
しかし、それを「生活するための条件」にしてはいけない。
私はそう考えています。
女性の経済自立とは、単に収入を増やすことではありません。
誰かとの関係が変わっても、結婚してもしなくても、家族に頼れても頼れなくても、自分の生活を継続できる選択肢を持つことです。
これからの社会に必要なのは、「保証してくれる人を探してください」という発想から、「どうすれば社会の仕組みで信用を支えられるか」という発想への転換ではないでしょうか。
人間関係に人生の安全保障を背負わせすぎない。
その仕組みをつくることが、本当の意味で「一人でも生きられ、誰かとも生きられる社会」につながると、仁蓉まよは考えています。
