女性の経済自立というと、「収入を増やす」「資格を取る」「副業を始める」といった話が中心になりがちです。
しかし、仁蓉まよが今、とても重要だと考えているのは、もう一歩先にある「自分の価値の価格を、自分で決められるか」という視点です。
働く時間を売るだけではなく、自分の知識、経験、技術、信用、企画力に、どのような価値をつけるのか。これは起業家だけの問題ではありません。会社員にも、フリーランスにも、医療職にも、福祉職にも関係するテーマです。
日本では女性の就業率そのものは上昇しています。一方、2025年の女性の正規雇用比率は25〜29歳をピークに低下し、男女間賃金格差も国際的に大きい状態が続いています。つまり、「働く女性が増えた」だけでは、経済的な意思決定権まで十分に広がったとは言えないのです。
今回は、「働く側」から「価値と価格を決める側」へ移ることが、なぜ女性の人生戦略になるのかを考えます。
価格は価値の翻訳である
価格というと、お金の話だけに聞こえるかもしれません。
しかし私は、価格とは「あなたの仕事にはこれだけの価値がある」と社会に伝える翻訳装置だと考えています。
たとえば、1時間働いていくらなのか。講演を1回行っていくらなのか。企画を一つつくることで、企業にどれだけの成果を生み出せるのか。
ここを考えないまま、「頼まれたから」「相場が分からないから」と価格を決めていると、自分の価値ではなく、相手の予算によって自分の仕事の価値が決まってしまいます。
価格設定とは、経済行為であると同時に、自己評価と経営判断なのです。
女性は値段を下げやすい
女性から起業や副業の相談を受けていると、「高いと思われたくない」「断られるのが怖い」という言葉を耳にすることがあります。
もちろん、すべての女性に当てはまるわけではありません。
ただ、女性は長く「協調すること」「感じよく振る舞うこと」「周囲に配慮すること」を期待されてきました。
その延長線上で、仕事でも「相手が困らない価格」に合わせようとしてしまうことがあります。
しかし、自分だけが負担を引き受ける価格は、優しさではありません。
長く続けられない仕事をつくってしまうことにもなるからです。
安さは競争力とは限らない
事業を始めたばかりの人ほど、「まず安くして実績をつくろう」と考えます。
それ自体が間違いとは限りません。
ただし、安さを理由に選ばれる状態が長く続くと、値上げすることが非常に難しくなります。
さらに、低価格で仕事を受け続ければ、必要な人材、教育、設備、休息に投資できなくなります。
福祉や医療、女性支援の領域では特に、「社会的に良い仕事なのだから安く提供すべき」という無言の圧力が生まれやすい。
しかし、本当に必要なサービスだからこそ、継続できる価格設計が必要なのです。
時間ではなく成果を見る
価格を考えるとき、多くの人が「何時間かかったか」で計算します。
もちろん時間は重要です。
しかし、本来の価値は時間だけではありません。
10年間の経験があるから、30分で解決できる問題もあります。
医療職の判断、マーケターの企画、経営者の人脈、専門家の知識。
目に見える作業時間の背後には、長い経験と学習があります。
だからこそ、「何時間働いたか」だけではなく、「相手にどのような変化を生み出したか」という成果の視点を持つことが必要です。
意思決定層になる意味
価格を決める力は、組織の中でも重要です。
日本では女性の就業者割合は男性と大きく違わない一方、管理的職業従事者に占める女性の割合は2025年時点で14.4%にとどまっています。上位の役職ほど女性割合は低く、部長級では9.3%です。
この数字が意味しているのは、単に「管理職の女性が少ない」ということだけではありません。
予算、人事、価格、投資、事業撤退といった「何に資源を配分するか」を決める場所に、まだ女性が十分に参加できていないということでもあります。
経済自立とは、給与を受け取ることだけではなく、経済の意思決定に参加することでもあるのです。
値上げには説明力が必要
価格を上げることに罪悪感を持つ必要はありません。
ただし、価格だけを突然上げれば、顧客が戸惑うのも当然です。
大切なのは、「なぜこの価格なのか」を説明できることです。
提供している価値、専門性、品質、サポート範囲、これまでの実績。
価格の背景を言語化することで、値上げは「お願い」ではなく「価値の説明」に変わります。
私は、女性の経済自立には交渉力だけでなく、この説明力も欠かせないと考えています。
「ついで」の仕事を見直す
特に女性の仕事には、「ついで」として扱われる業務が入り込みやすいと感じます。
相談に乗る。
人を紹介する。
資料を少し直す。
イベント後のフォローをする。
SNSで宣伝してあげる。
一つひとつは小さなことでも、積み重なればかなりの時間になります。
もちろん、すべてを有料にする必要はありません。
しかし、「これは好意なのか、仕事なのか」を自分で区別できることは重要です。
誰かを支えることと、自分の時間を無制限に差し出すことは違います。
引き受ける前に、目的、所要時間、責任の範囲を確認する。
必要であれば、正式な業務として契約や報酬を設定する。
そうした線引きができると、周囲との関係を壊さずに、自分の時間と専門性を守れるようになります。
女性が市場をつくる側へ
2022年時点で、日本の起業家に占める女性の割合は32.3%でした。女性が事業をつくる側に回る動きは、確実に広がっています。
これから重要になるのは、単に「女性起業家を増やすこと」だけではありません。
女性自身が、価格を決め、雇用条件を決め、取引先を選び、投資先を決める立場になることです。
私は、女性の経済自立の最終地点は「たくさん稼ぐこと」だけではないと思っています。
自分が大切だと思うものに資源を配分できること。
自分の仕事の価値を、自分の言葉で説明できること。
そして、「この条件では引き受けない」と決められること。
価格を決める力とは、単なるビジネススキルではありません。
それは、自分の人生にどのような価値を置くのかを、自分自身で決める力なのです。
