物価が上がると聞くと、まず思い浮かぶのは「食費が高くなった」「電気代が上がった」といった日々の家計ではないでしょうか。
しかし、インフレ、つまりモノやサービスの価格が継続的に上昇する状況は、毎月の出費だけの問題ではありません。
住む場所をどうするか。結婚するか。子どもを持つか。仕事を続けるか。転職するか。親の介護にどう備えるか。老後にどれだけ資産を残すか。
こうしたライフデザインそのものにも、物価は関係します。
総務省が2026年8月21日に公表した2026年7月の全国消費者物価指数は、総合指数が前年同月比1.9%上昇、生鮮食品を除く総合指数が1.8%上昇しました。物価上昇率は一時期に比べれば落ち着いているものの、「値上げが終わった」という状態ではありません。
さらに女性の経済状況を見ると、2025年の一般労働者の所定内給与額は男性を100とした場合の女性の給与水準は76.6でした。物価高を考えるときには、単に「何%値上がりしたか」だけではなく、その値上がりを吸収できる所得があるのかという視点も欠かせません。
今回は、最新の公的統計と実際に行われている行政施策から、値上げが女性のライフデザインとどこでつながっているのかを考えます。
物価高はまだ続いている
総務省統計局による2026年7月の「全国消費者物価指数」では、2025年を100とした総合指数は102.0となり、前年同月比1.9%上昇しました。
また、生鮮食品を除く総合指数は前年同月比1.8%上昇、生鮮食品とエネルギーを除く総合指数も1.9%上昇しています。
消費者物価指数(CPI)とは、全国の世帯が購入する商品やサービスの価格がどの程度変化しているのかを見る代表的な統計です。
食料だけではなく、住居、光熱・水道、家具、衣類、保健医療、交通・通信、教育、教養娯楽など、家庭生活に関わる幅広い支出が対象となっています。
つまり現在の物価問題は、「スーパーの商品が少し高くなった」という一つの支出項目だけで考えられるものではありません。
家計を構成する複数の価格が上昇すれば、それまでと同じ生活水準を維持するために必要なお金も変化します。
その結果として、家計では「お金の使い方の優先順位」の見直しが必要になります。
家計は支出を抑えている
物価上昇を考える際には、「価格」だけでなく、実際の家庭がどのくらい消費しているかを見ることも重要です。
総務省の家計調査によると、2026年6月の二人以上の世帯の消費支出は、1世帯当たり29万886円でした。
前年同月比では、名目で1.5%減少し、物価変動の影響を取り除いた実質では3.3%減少しています。
これはすべての家庭が同じ行動をしていることを意味する統計ではありませんが、日本の家計全体の動向を見る重要な指標です。
現在の「支払額」だけを見ても生活実態は分かりにくくなり、例えば同じ1万円を使っても、変動以前より商品の価格が上がっていれば、実際に購入できる量やサービスが減るのは必然といえます。
これからの家計管理では「毎月いくら使っているか」だけではなく、「同じ金額で何を確保できるのか」という視点が必要になります。
食費、教育費、住宅費、医療費、交通費などは、それぞれ人生の選択と結びついている物価変動は、家計簿の数字だけではなく、生活の優先順位にも関係する経済環境なのです。
女性には所得格差がある
値上げそのものは男女を区別して起こるわけではありません。
しかし、物価上昇への対応力を考えるうえでは、所得や雇用形態の違いを無視できません。
内閣府「男女共同参画白書 令和8年版」によると、2025年の15~64歳女性の就業率は75.3%まで上昇しています。
一方、女性の正規雇用比率は25~29歳の62.8%をピークに年齢とともに低下する、いわゆる「L字カーブ」が残っています。
さらに厚生労働省の2025年賃金構造基本統計調査を引用した同白書では、一般労働者の所定内給与額は女性28万5,900円、男性37万3,400円です。
短時間労働者の1時間当たり賃金についても、女性1,418円、男性1,769円と差があります。
ここで重要なのは、「女性だから物価高に弱い」と一括りにしないことです。
所得、雇用形態、世帯構成、資産、住宅状況などによって家計の状況は大きく異なります。
一方で、公的統計として男女間の所得差や雇用構造の違いが存在している以上、同じ値上げ幅であっても、家計の余力に与える影響が一律ではないことは考慮する必要があります。
光熱費には国の支援も
生活費の中でも、電気やガスは簡単にはゼロにできない支出です。
特に夏場は熱中症予防の観点から、単純に冷房を我慢すればよいという問題ではありません。
政府は2026年7月から9月まで、電気・ガス料金への支援を実施しています。
家庭で主に利用される低圧電気については、2026年7月使用分と9月使用分で1kWh当たり3.5円、8月使用分で4.5円を支援。都市ガスについては7月・9月使用分で1立方メートル当たり14円、8月使用分で18円の支援となっています。
経済産業省は、標準的な家庭の場合、電気とガスを合わせて3か月で5,000円程度の負担引下げ効果になると説明しています。
また、この支援は利用者が給付金を申請して受け取る仕組みではなく、対象となる料金の値引きとして反映されます。
資源エネルギー庁は、「電気・ガス料金支援の受け取り手続き」などを求めるメールについて、詐欺への注意喚起も行っています。
支援を受けるために個人情報や手数料を求めることはないとはっきり明記されています。
物価高対策を利用するときには、「制度があるか」だけでなく、正式な行政情報から利用方法まで確認することが重要です。
東京は生活費を直接支援
物価高への対応は国だけではありません。
自治体でも、地域の生活環境に合わせた支援策が実施されています。
東京都では、物価高騰の影響を受ける子育て世帯を支援するため、「018サポート子育て応援+(プラス)」を実施しています。
対象となる0歳から14歳までの都民に対して、一人当たり1万1,000円を1回支給する仕組みです。既存の018サポートの仕組みを活用し、対象者によっては申請不要のプッシュ型支給が行われます。
また東京都では、主に家庭で使われている小口径(13・20・25mm)の水道契約を対象に、2026年夏季4か月分の基本料金を無償とする措置を実施しています。
東京都は、都民が光熱水費の負担を理由にエアコンなどの利用を控えることがないよう、負担軽減を図ることを目的として掲げています。
値上げ対策というと現金給付をイメージしがちですが、水道料金、給食、住宅、子育てなど、生活に不可欠な固定的支出を直接下げる方法も自治体の政策として採用されています。
大阪は食費を支援
大阪府では、物価高騰の影響が長期化する中で、子育て世帯や若者を対象とした食費支援が行われています。
実例としては、対象者に税込1万円相当(送料を含む)の「お米Payおおさか(お米クーポン)」またはその他の食料品を給付しています。申請期間は2026年3月26日~6月25日、給付物品の申込・クーポン使用期限は9月25日です。
対象者には、2003年4月2日以後に生まれ、一定の居住要件を満たす人のほか、大阪府内に居所を有する妊婦も含まれています。
大阪府はこの事業について、「物価高騰の影響が長期化する中、強く影響を受ける子育て世帯、大学生年齢の若者を支援する」ことを目的として示しており、食料品価格上昇に対して、現金ではなく米や食料品という形で生活必需品を支援する点が特徴です。
東京都のように水道料金や現金相当の支援を行う自治体もあれば、大阪府のように食費そのものへ働きかける自治体もあります。
物価高対策は全国一律ではないため、「自分の住む自治体でどのような制度が実施されているのか」を確認することも、現在の家計管理の一部になっています。
値上げは将来にもつながる
物価上昇の影響を考えるとき、今日の生活費だけを見るのは十分といえません。
現役時代の男女の働き方や賃金格差が、高齢期の収入にも影響すると指摘しています。
これは単なる私の推論ではなく、令和8年版男女共同参画白書が実際に明記している内容です。
厚生年金の老齢給付は、現役時代の給与水準や加入期間などに基づいて決まるため、賃金格差や出産・育児などに伴う就業中断による加入期間の差が、老後の収入格差にもつながると説明されています。
これは、物価問題と女性のライフデザインを考える上で重要な背景です。
生活費が上昇した際、家計には複数の対応が迫られます。消費を減らす、収入を増やす、貯蓄を取り崩す、資産形成額を減らすなどです。
どの選択をするかによって、現在の生活だけでなく、将来に残る資産や所得環境も変わります。
特に長期のライフデザインでは、「結婚・出産・住宅・働き方・介護・老後」を、所得、社会保障、生活費、資産形成を一つの流れで確認することが必要となります。
物価は毎月変動する数字ですが、その影響を受けるのは、長い人生の資金計画なのです。
節約より「選べる力」を
私は、女性と値上げの問題を「もっと節約しましょう」という話で終わらせたくありません。
助産師として女性の人生に関わり、プレコンセプションケアやキャリア、福祉、女性の経済自立に携わってきたからこそ感じるのは、お金の余裕とは「単なる残高」ではなく、人生の選択肢を残しておく力でもあるということです。
食料品が上がった。電気代が上がった。家賃が上がった。
一つひとつを見ると数百円、数千円の問題かもしれません。
しかしその積み重ねによって、「資格取得」「美容院の回数」「健康診断のオプション」「転職」「一人暮らし」を先送りにしたり諦める事となれば、単なる節約では済まなくなります。
それは女性が未来のために使える選択肢が少しずつ削られているということです。
だからこそ私は、物価高の時代には「何を削るか」だけではなく、何を絶対に削らないかを決めることが重要だと考えます。
健康への投資、学びへの投資、人との繋がり、収入を得続けるためのスキル。いざというときに環境を変えられるだけの現金や資産。
これらは一見すると生活必需品ではないように見えても、長い人生では自分を守る基盤になります。
企業にも考えていただきたいことがあります。
物価が上がっている中で、給与だけを据え置き、福利厚生や研修費まで削ってしまえば、従業員は生活を守るために将来への投資を削らざるを得なくなります。
行政も同様です。
給付金だけではなく、住宅、食、エネルギー、教育、保育、医療など「生きるために必ず必要になる固定費」をどう下げるかという視点が重要だと私は考えます。
そして女性自身も「値上げに耐える」だけの家計から一歩進めてよいと思うのです。
収入を上げる方法。変更可能な固定費。利用できる制度。働き方を変える選択肢。資産形成を完全に止めずに済む方法。
そうやって、一つずつ選択肢を増やしていく。
インフレ時代に必要なのは、我慢ではありません。
値上げされても、自分の人生まで値下げしない力だと感じます。
私はそれこそが、これからの女性のライフデザインに必要な経済的自立だと考えています。
