目次
病院、美容院、保育サービス、家事代行、人気店、行政手続き。私たちの暮らしは、いつの間にか「予約すること」を前提に動くようになりました。
便利になった一方で、仁蓉まよが気になるのは、予約できる人と、予約できない人の格差です。
必要なサービスが存在していても、平日の昼間にスマートフォンを操作できなければ取れない。数週間先の予定を確定できなければ利用できない。キャンセルすると費用が発生する。
こうした小さな条件の積み重ねが、実は女性の時間や働き方、健康、子育てに影響しています。
今回は「予約」という日常的な行為から、見えにくい時間格差について考えます。
予約もひとつの能力になる
予約は、単に空いている時間を選ぶだけの行為ではありません。
自分や家族の予定を把握し、仕事との調整を行い、移動時間を計算し、必要ならキャンセル条件まで確認する。
つまり予約には、意外なほど多くの「段取り」が含まれています。
しかも、子どもの通院や予防接種、家族の予定まで管理している人ほど、その負担は増えていきます。
私は、この見えない調整作業も生活を支える重要な労働の一つだと考えています。
医療にも「時間格差」がある
助産師・看護師・保健師として医療に関わってきた私が特に考えたいのが、受診と時間の問題です。
医療機関が存在することと、実際に受診できることは同じではありません。
仕事を休めない、子どもを預けられない、予約時間に間に合わない。そうした事情によって、必要性を感じながら受診を先延ばしにすることもあります。
健康格差を考えるときには、費用や地域差だけでなく、**「その人が自由に使える時間を持っているか」**という視点も必要なのです。
予定を読めない人ほど不利になる
予約社会には、もう一つ特徴があります。
それは「未来の予定を確定できる人」が有利だということです。
勤務時間が一定の人なら、1か月後の予定も比較的決めやすいでしょう。
一方、シフト勤務、介護、育児、家族の通院などを抱えていれば、数週間先の予定を確定すること自体が難しくなります。
これは計画性の問題ではありません。
生活条件によって「未来を確定できる度合い」が違うのです。
キャンセル料が示すもの
事業者側から見れば、直前キャンセルは大きな損失です。私自身、事業を経営する立場として、予約枠を守る仕組みの必要性は理解しています。
一方で、利用者側には突然の発熱、子どもの体調不良、仕事の変更などがあります。
だからこそ必要なのは、「キャンセル料は悪い」「利用者の事情をすべて認める」という二択ではありません。
事業を継続できることと、利用者が安心して予約できること。その両方を成立させる制度設計が重要です。
「人気枠」を取れる人の条件
オンライン予約が始まった瞬間に枠が埋まるサービスも珍しくありません。
そこで有利になるのは、必ずしも一番必要としている人ではありません。
通知を確認できる人、予約開始時刻にスマートフォンを操作できる人、デジタルサービスに慣れている人が先にアクセスできます。
つまり「先着順」は公平に見えても、スタート地点の条件までは公平とは限らないのです。
サービス設計では、この違いを考える必要があります。
時間を買える人は強い
家事代行、宅配、タクシー、ベビーシッターなど、お金によって時間を生み出せるサービスは増えています。
私はこれ自体を否定的には捉えていません。
むしろ女性が自分の時間を取り戻すために、外部サービスを活用することは重要です。
しかし同時に考えたいのは、時間を買える経済力そのものが人生の選択肢を左右するということです。
所得格差は、単に「買える物」の差ではありません。
休める時間、学べる時間、病院へ行ける時間、誰かと過ごせる時間の差にもなっていきます。
企業は「時間負担」を設計する
これから企業がサービスを考える際には、価格だけではなく「利用者に何分の負担を要求しているか」という視点が重要になると私は考えています。
複雑な会員登録、何度も入力させるフォーム、電話でしか変更できない予約、長時間の待ち時間。
一つひとつは小さくても、利用者から時間を奪っています。
特に医療、福祉、行政、女性向けサービスでは、利用者がすでに多くの課題を抱えていることもあります。
「使いやすさ」はデザインの問題だけではなく、支援の質そのものなのです。
時間を守ることも女性支援
女性支援というと、相談窓口や給付、就労支援などが注目されます。
もちろん、それらは重要です。
しかし私は、もっと日常的なところにも支援の余地があると考えています。
予約しやすいこと。変更しやすいこと。待たなくていいこと。オンラインと対面を選べること。予定が読めなくても利用できること。
こうした小さな設計によって救われる時間があります。
女性の人生を支えるとは、何かを「与える」ことだけではありません。
その人が自分のために使える時間を、社会が奪わないこと。
時間を自由に使えることもまた、経済自立や自己決定と同じように、人生の自由を支える大切なインフラなのです。
