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私たちは毎日、SNSを通じて膨大な情報に触れています。
美容、結婚、妊娠、転職、起業、投資、ファッション。自分で検索して情報を探しているつもりでも、実際にはSNS側から「あなたにはこれがおすすめです」と提示される情報を見る時間が増えています。
ここで考えたいのが「アルゴリズム」の存在です。簡単にいえば、利用者の行動などをもとに、どの情報をどの順番で表示するかを決める仕組みです。
便利である一方、私たちの「欲しい」「こうなりたい」「これが普通」という感覚まで、その影響を受けている可能性があります。
女性の意思決定を支援してきた私が今、重要だと感じているのは、情報を集める力だけではありません。「自分の選択は、本当に自分から生まれたものなのか」と問い直す力なのです。
「おすすめ」は偶然ではない
SNSを開くと、自分が興味を持ちそうな投稿が次々と表示されます。
これは偶然ではありません。過去に見た投稿や検索、反応など、さまざまな情報を手がかりに、サービス側が「この人は何に関心を示しそうか」を予測しているからです。
つまり私たちは、世界中の情報を均等に見ているわけではありません。
一人ひとり異なる「情報の窓」から社会を見ています。
その仕組みを知らなければ、「みんながこう考えている」「最近はこれが常識なのだ」と、目の前に繰り返し表示される情報を社会全体の現実だと受け止めてしまうことがあります。
女性の不安とSNSは近い
女性の人生には、年齢と結びつけて語られやすいテーマが少なくありません。
「何歳までに結婚」「妊娠するなら早いほうがいい」「若いうちに美容へ投資」「この年齢なら管理職を目指すべき」などです。
もちろん、医学的に年齢との関連を考える必要がある事柄もあります。しかし、医学的事実と社会的な焦りは分けて考えなければなりません。
一度不安から関連情報を見続けると、似た情報にさらに触れやすくなることがあります。
すると、本来は情報収集のために開いたSNSが、不安を強化する場所になってしまう可能性があるのです。
欲しいものまで変わっていく
マーケティングの立場から見ると、さらに興味深いことがあります。
人間の「欲しい」は、最初から完成しているわけではありません。
何度も同じ商品やライフスタイルを目にすると、それまで必要だと思っていなかったものまで魅力的に感じることがあります。
美容医療、ブランド品、住宅、結婚式、資格、副業、投資。
商品そのものだけでなく、「こういう女性が成功している」「こういう暮らしが幸せ」という人生像までSNS上では提示されています。
現代のマーケティングは、モノを売るだけではありません。「理想の人生像」と一緒に商品を届ける時代になっているのです。
婚活にも影響する情報環境
婚活も例外ではありません。
SNSでは「結婚相手に求めるべき条件」「避けるべき男性」「愛される女性の特徴」など、強い言葉で整理された情報が広がりやすくなっています。
もちろん参考になる情報もあります。
しかし、それを見続けることで、本来は自分にとって重要ではなかった条件まで「絶対に必要」と感じるようになる可能性があります。
婚活で重要なのは、情報をたくさん持つことだけではありません。
「私はどんな生活を送りたいのか」という自分自身の基準を持つことです。
条件を増やすことと、幸せになる確率を高めることは、必ずしも同じではありません。
医療情報では特に注意する
助産師として、私はSNSと医療情報の関係を特に慎重に考えています。
妊娠、不妊治療、月経、更年期、美容医療、サプリメントなど、女性の身体に関する情報はSNSにも大量にあります。
しかし、医療は個人差が大きい領域です。
誰かに有効だった方法が、そのまま別の人にも適切とは限りません。また、強い体験談ほど印象に残りやすくても、体験談と医学的根拠は別のものです。
SNSは「知るきっかけ」として活用しながら、重要な判断については公的情報や医療機関、適切な専門家など複数の情報源を確認する。
デジタル時代のプレコンセプションケアには、この情報リテラシーも含めて考える必要があると私は思います。
「検索する力」から一歩先へ
これまで情報リテラシーというと、「正しい情報を検索できること」が重視されてきました。
しかし、これからはそれだけでは足りません。
必要なのは、「なぜ私はこの情報を見せられているのか」を考える力です。
SNSで気になる情報を見つけたときには、「これは事実なのか、意見なのか、広告なのか」「反対の立場から見るとどうなのか」「SNSの外にはどんな情報があるのか」と考えてみる。
情報を疑うというより、情報との距離を自分で決めるのです。
企業にも問われる責任
この問題は、利用者だけの責任ではありません。
女性向けの商品やサービスを提供する企業にも、情報発信の倫理が問われています。
「今やらないと手遅れ」「このままでは選ばれない」など、女性の年齢や容姿、結婚、妊娠、キャリアへの不安を過度に刺激すれば、短期的には行動を促せるかもしれません。
しかし、私はそれを持続可能なマーケティングだとは考えていません。
女性の不安を増幅させて売るのではなく、判断材料を提供し、本人が納得して選べるようにする。
これからの女性市場では、この「意思決定を支えるマーケティング」がブランドへの信頼につながると考えています。
選択する力を取り戻す
アルゴリズムそのものが悪いわけではありません。
自分に必要な情報へ早くたどり着けることは、大きなメリットです。
問題は、便利な「おすすめ」を、自分自身の意思と混同してしまうことです。
SNSを閉じたあとでも、私はそれを望むだろうか。
誰にも見られなくても、その選択をしたいだろうか。
違う情報を見ていたとしても、同じ結論を選ぶだろうか。
そんな問いを持つだけでも、情報との関係は変わります。
女性の自己決定を守るとは、選択肢を増やすことだけではありません。「誰かに選ばされた人生」ではなく、「自分で選んだと納得できる人生」をつくること。
アルゴリズムが高度になる時代だからこそ、最後の意思決定まで機械や世間に預けない力が、私たちには必要なのです。
