製造業というと、工場、機械、溶接、加工、組立など、「男性が多い現場」をイメージする方もいるでしょう。
しかし2026年現在、日本の製造業は人材確保や技能継承という課題に直面する一方、女性の採用、技能職への配置、勤務制度の整備、リーダー育成などに取り組む企業も存在しています。
2026年版ものづくり白書によると、日本の製造業の就業者数は2024年の1,046万人から、2025年には1,033万人へ減少しました。また、中小企業の製造業における従業員数過不足DIは2025年にマイナス17.9となっており、人手不足感が続いています。
企業レベルでも女性の製造業への参画は確認できます。たとえばトヨタ自動車では、2024年度の女性採用比率が事務職40.1%、技術職12.2%、技能職20.0%でした。
【考察】
私は、女性のキャリアを考えるとき、オフィスワークや専門職だけを選択肢にする必要はないと考えています。
製品をつくる。機械を扱う。品質を守る。技能を身につける。そして技術を次の世代へ伝える。
「ものづくり」もまた、女性が専門性を築いていけるキャリアの一つとして、もっと知られてよいのではないでしょうか。
今回は、2026年現在確認できる事実と実例をもとに、「女性×製造業」の現在地を考えます。
製造業が直面する人材課題
2026年版ものづくり白書によると、製造業の就業者数は2025年に1,033万人です。
34歳以下の若年就業者は258万人、65歳以上の高齢就業者は85万人となっています。
また、製造業の若年就業者数は2012年頃まで減少傾向が続き、その後はおおむね横ばいで推移しています。
同白書では、人材確保・定着や技能継承などが、ものづくり人材をめぐる重要な論点として取り上げられています。
【考察】
この数字から考えたいのは、「女性活躍」という言葉だけではありません。
製造業そのものが、これから誰に技能を伝え、誰がものづくりを担っていくのかという問題です。
女性の製造業への参画を考えることは、女性支援だけではなく、日本のものづくりを誰が支えていくのかという産業側の課題とも接続していると私は考えています。
技能職でも女性を採用
トヨタ自動車が公表しているSustainability Data Bookでは、2024年度の女性採用比率は、事務職40.1%、技術職12.2%、技能職20.0%です。
また、同年度のトヨタ自動車単体の女性管理職比率は4.0%、女性管理職数は432人となっています。
ここで重要なのは、女性採用が事務職だけに限定されていないことです。
技能職でも採用者のうち20.0%が女性だったという具体的な数字が公表されています。
【考察】
私はこの数字を、「製造業=男性の仕事」というイメージと現実を分けて考える材料の一つとして捉えています。
もちろん、一社の数字だけで日本の製造業全体を語ることはできません。
それでも、大手製造企業において技能職への女性採用が実際に行われ、その割合まで公開されていることは、女性が製造現場をキャリアの候補として考えるうえで知っておきたい事実です。
現場の働き方も変わる
トヨタ紡織では、技能系職場で働く女性社員の声を施策へ反映する取り組みを行っています。
2020年8月には、交替勤務職場で常昼・常前直などの勤務制度を導入。2024年4月には短時間勤務制度の対象年齢を拡大しました。
さらに現在、技能系職場では育児をする社員が働きやすいラインを導入しています。
女性特有の休暇を「Fケア休暇」として統合したほか、家族のケアや不妊治療にも利用できる「ライフサポート休暇」を設け、時間単位での取得も可能としています。
【考察】
製造現場では、生産ラインや交替勤務など、オフィスワークとは異なる働き方があります。
だからこそ、「女性本人が既存の働き方に適応する」だけではなく、働き続けられる制度や現場をどうつくるかという視点が重要です。
女性の採用人数だけを見るのではなく、採用した人が働き続けられる現場になっているかを見ることが、製造業の女性活躍を考えるうえで重要だと私は考えています。
溶接を担う女性もいる
中小企業庁が公表した中小企業白書には、女性従業員の職域を製造現場で広げた企業事例が掲載されています。
紹介された企業では、従来「溶接作業は危険だから男性の仕事」と考えられていました。
しかし、女性従業員が資格を必要としない溶接作業に取り組み、その後、溶接に従事する女性従業員について会社が費用を負担して資格取得を支援。技能手当も支給する仕組みを設けました。
同事例では、全従業員76人のうち45人が女性で、39人が製造現場で働いていたことも報告されています。
【考察】
この事例で私が注目するのは、「女性にもできる」という精神論ではありません。
実際の業務を経験する機会をつくり、その後に資格取得を支援し、さらに技能手当という評価につなげている点です。
仕事を性別だけで分けるのではなく、必要な教育、資格、安全性、技能、評価という具体的な条件で考える。
これは製造業に限らず、女性の職域を広げるうえで大切な考え方だと思います。
女性リーダーを育てる
岐阜県では、製造業で働く女性のスキルアップを目的とした「モノづくり女子塾」を2014年から開始しました。
経済産業省の2018年版ものづくり白書によると、それ以前から製造業の経営層や工場長、部門長などを対象とした階層別研修を実施していましたが、女性の参加者が0~1人と少ない状況がありました。
そこで女性が参加しやすい研修として、女性を対象とする「モノづくり女子塾」が設けられました。
【考察】
女性が少ない業界では、社内だけで同じ立場の女性と出会うことが難しい場合があります。
だからこそ、一企業だけで人材育成を完結させるのではなく、自治体などが企業を越えた学びの場をつくる方法には意味があります。
女性を「採用する」ことと、女性を「育成し、次の役割につなげる」ことは別の課題です。
入口だけでなく、その先のキャリアまで考える必要があります。
地方にも製造業キャリア
富山県のコマツNTCは、2025年度実績として女性正社員比率17.7%、女性管理職比率3.75%を公表しています。
女子学生の採用拡大に向けたイベントへの参加やインターンシップのほか、女性の育成・登用方針の社内共有、職場リーダー育成を目的とした職場改善活動も実施しています。
また、2026年4月、経済産業省北海道経済産業局は、若者・女性・外国人から「働きたい企業」「暮らしたい地域」となるための取り組みをまとめた事例集を公表しました。
そこには富山県の鋳物メーカー、能作を含む複数の企業事例が掲載されています。事例集そのものが、人口減少や人手不足を背景に「良質な雇用環境」をどうつくるかという目的で作成されています。
【考察】
女性のキャリアというと、都市部のオフィスワークやサービス産業が注目されがちです。
しかし、地方には製造業という雇用基盤があります。
だからこそ地方で女性のキャリアを考える際、「どんな企業があるか」だけでなく、女性が採用され、育成され、役割を広げられる職場なのかを見ることも大切です。
地方創生と女性のキャリアを別々に考えるのではなく、「地域にどのような仕事と成長機会をつくるのか」という一つの問題として捉える必要があると私は考えています。
技能を学べる環境づくり
製造業では、採用だけではなく技能教育も重要です。
トヨタ紡織の技能育成センターでは、技能系社員などを対象に知識教育・実践教育を行っています。
2025年度には、技能員向け36講座を延べ484人、基本技能研修12講座を延べ126人が受講しました。また、産業用ロボット教示、低圧電気取り扱い、高所作業などの特別教育・資格認定教育13講座には延べ1,155人が参加しています。
さらに同社は、ハンディキャップのある社員や短時間勤務の社員なども平等に研修を受講できるよう体制を整えていると公表しています。
【考察】
製造業のキャリアを考えるとき、「最初から技術を持っている人だけが働ける」と考える必要はありません。
重要なのは、入社した後に技能を学び、資格や経験を積み上げられる環境があるかどうかです。
女性の職域を広げることと、教育機会を広げることは切り離せません。
私は、女性が製造業を選択肢として考える際にも、「何の仕事ができるか」だけでなく、そこで何を学び、数年後にどのような専門性を持てるのかを見ることが大切だと考えています。
ものづくりを女性の選択肢へ
2026年現在、日本の製造業では就業者数が減少し、中小製造業では人手不足感が続いています。
一方、実際の企業や自治体では、
・女性技能職の採用
・女性による溶接作業と資格取得支援
・技能系職場の勤務制度改善
・女性リーダー育成
・女性管理職登用
・技能教育・資格認定
といった取り組みが実施されています。
つまり、「女性×製造業」は将来だけの話ではありません。すでに具体的な取り組みが存在しています。
【考察】
私がここで大切にしたいのは、「製造業は人手不足だから女性に働いてもらおう」という発想だけで終わらせないことです。
女性を単なる「不足する労働力」として見るのであれば、本質的な女性活躍にはつながりません。
・仕事を経験する機会があること。
・技能を学べること。
・資格を取得できること。
・技能が適切に評価されること。
・ライフイベントがあっても働き続けられること。
そして、現場からリーダーや管理職へ進めること。
こうしたキャリアの連続性まで設計されて初めて、「女性も製造業を選べる」という状態に近づくと私は考えています。
【将来的な可能性】
ここについては、未来の事実として断定することはできませんが、現在確認できる人材不足、技能継承の課題、女性技能職の採用、勤務制度改革、技能教育などを踏まえれば、これまで製造業を就職先として検討してこなかった女性にとって、ものづくりがキャリアの選択肢として認識される余地はあります。
企業側にも可能性があります。
女性が働き続けられるよう、勤務制度、設備、教育、評価、キャリア形成を見直すことは、「女性だけの特別な制度」をつくることとは限りません。
育児をする人、介護をする人、短時間勤務をする人など、さまざまな事情を持つ人が技能を身につけ、働き続けられる現場を考える契機にもなります。
そして女性側にも、キャリアの選択肢はオフィス、医療、福祉、サービス業だけではありません。
ものをつくる。機械を扱う。品質を守る。技能を磨く。現場を改善する。人を育てる。
そこにも、専門性を持って働くキャリアがあります。
私は女性支援とは、女性に「この仕事を選びなさい」と示すことではなく、これまで自分とは関係ないと思っていた仕事まで、自分の意思で検討できる環境を広げることだと考えています。
製造業も、その選択肢の一つです。
「工場で女性が働くこと」を特別なニュースとして扱わなくてよい社会になったとき、ものづくりの現場は今より多様なキャリアの舞台になっているのかもしれません。
※本記事は、2026年8月時点で確認できる経済産業省・厚生労働省等の政府資料および各企業の公式公表資料をもとに記載しています。「考察」「将来的な可能性」は、それらの事実と区別して記載しています。
