ビジネス・SNS

介護=お世話ではない!小さな役割がもたらした大きな変化とは?

介護=お世話ではない!小さな役割がもたらした大きな変化とは?
神奈川県 水谷 菜々子 介護=お世話ではない!小さな役割がもたらした大きな変化とは?

介護というと、「日常生活において、すべてのことを手伝う」と思われがちです。もちろん、生活のサポートをすることは大切ですが、それだけではありません。実は介護の現場では、「その人ができることを引き出し、生きがいを支える」ことが、心を豊かにする大きな役割を果たしています。今回は、そんな「できることを探す」ことで変わった利用者さんのエピソードをお話しします。

「ここはどこ?」——介護施設で不安を抱えたAさんの葛藤

水谷 菜々子

新しく施設に入所されたAさんは、初めての場所に強い不安を抱いていました。夜も眠れず、「家に帰りたい」という気持ちが日に日に強くなっていきます。また、職員に「私、今日帰りますので」「出口はどこ?」「駅はどちらですか」などと頻繁に声をかけてきます。

ご家族の事情で施設に入所しているため、今は家には帰れないのですが、そのことについて、認知症のあるAさんは理解できていませんでした。

そんなAさんの姿には、職員もかなり困っていました。

「なにかできることはない?」——いかに帰宅願望を紛らわせるか

水谷 菜々子

まず、Aさんから「帰りたい」と言う気持ちが出た時に、何か役割をお願いしてみることで気を紛らわせることができたらいいなと考えました。

そこで、「Aさんができること」を一緒に探してみることにしました。

私の働く施設では、衣類の洗濯はクリーニング業者に依頼していますが、食事用エプロンは施設内で洗濯していました。そこで、まずはエプロンをたたむ作業をAさんにお願いしてみました。すると、驚くほど丁寧に、きれいにたたんでくれたのです。

「またお願いしてもいい?」と聞くと、「私暇だからいつでも頼んで!」

そう明るく返してくれたんです。

その姿を見て、次にエプロンを干す作業をお願いしました。これもまた、Aさんはとても丁寧にやってくれました。

そうやって、少しずつ役割を増やしていきました。


「自分にもできることがある」——役割を見つけたAさんの心の変化

水谷 菜々子

Aさんは作業に集中することで、「帰りたい」と訴えることが減り、穏やかに過ごせる時間が増えていきました。

エプロンを干す、たたむ。そんな何気ない作業ですが、それはAさんにとって、「自分が役に立っている」と感じられる大切な役割となったのです。

そのほかにも、大切にしたのは職員といる時間です。
なかなか日々の業務に追われると難しいこともあるのですが、一緒の作業をすることもかなり効果があったと感じます。

A4の紙を4分割して小さなメモ用紙を作る作業がありました。最初は職員がA4の紙を半分に切り、その後、Aさんにお願いし、その紙をさらに半分に切ってもらいました。Aさんとゆっくり話をしながら作業をしていると、次第に会話の内容が明るいものに変わっていきました。

ある日、ふるさとの話をしていたときのこと。「あそこはいいところだから、今度遊びに来てね。」とAさんが笑顔で言いました。以前は、「帰りたい」と毎日のように言っていたAさんが、まるでその場所に戻る必要がないかのように、今では穏やかな気持ちで話していることに驚きました。
その瞬間、「帰りたい」という言葉は、もはやAさんの口からは聞こえなくなっていたのです。

介護は「生きがいを支える」仕事

水谷 菜々子

介護は「ただお世話をする仕事」ではありません。支えることで、その人が本来持っている力を引き出し、「自分にもできることがある」と気づいてもらうことが大切です。Aさんのように、「誰かの役に立っている」と感じられることで、人は少しずつ前向きに変わっていくのです。

介護現場では、単に日常生活の支援をするだけでなく、その人が「できること」に目を向けることがとても重要です。「支えられる側」から「支える側」に回ることで、利用者さん自身の気持ちが変わり、穏やかな生活へとつながります。

私たち介護職ができるのは、「その人が持っている力を引き出し、生きがいを見つけるサポートをすること」。それが介護の本当のやりがいであり、支える側にとっても、大きな学びとなるのです。

介護のイメージを「負担」ではなく、「支え合う仕事」として捉え直すことで、もっと多くの人にその魅力が伝わるといいなと思います。

関連記事

回復期の女性が「怠け者」に見える社会

ビジネス・SNS 2026年2月3日 11:23 49

女性はどこで「もう頑張れない身体」になるのか ― 感情ではなく“身体の限界値”から人生を設計し直す ―

ビジネス・SNS 2026年2月2日 12:00 82

賃金格差は“能力差”ではなく設計差で生まれる

ビジネス・SNS 2026年1月30日 12:04 197

女性支援が抱える「評価されない失敗」の構造

ビジネス・SNS 2026年1月29日 11:29 267

女性支援が機能しない本当の理由 ――「善意」に依存した社会設計の限界

ビジネス・SNS 2026年1月28日 11:47 267

女性支援は「善意」から「制度責任」へ

ビジネス・SNS 2026年1月27日 11:08 323

女性の信用(クレジット)は、なぜ人生を左右するのか

ビジネス・SNS 2026年1月26日 13:33 401

正義感が強い人ほど、境界線を引けなくなる

ビジネス・SNS 2026年1月23日 11:24 467

女性支援がビジネスになるとき、失われやすいもの

ビジネス・SNS 2026年1月22日 11:10 566

「支援し続けられる人」が壊れていく構造

ビジネス・SNS 2026年1月20日 11:22 652

「支える」と「迫る」は似て非なるもの

ビジネス・SNS 2026年1月19日 11:38 668

「回復」は、個人の根性ではなく社会設計である

ビジネス・SNS 2026年1月21日 10:52 683

支援者の休息は「甘え」ではなく安全管理である

ビジネス・SNS 2026年1月15日 11:08 741

なぜ私は「支援する側」に立ち続けてきたのか

ビジネス・SNS 2026年1月16日 11:48 783

ケア経済は「社会設計」の問いである

ビジネス・SNS 2026年1月14日 11:17 823

支援者が休むことは、なぜ許されにくいのか

ビジネス・SNS 2026年1月13日 11:22 908

共感されない声は、なぜ社会から消されるのか

ビジネス・SNS 2026年1月10日 10:54 970

正しいことをしてきた人ほど、なぜ苦しくなるのか

ビジネス・SNS 2026年1月9日 12:05 1073

女性支援を“事業化”する責任

ビジネス・SNS 2026年1月8日 11:22 1144