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年金は「老後のお金」の話ではありません。
それは、社会がどのような人生を標準モデルとして設計しているかを示す“価値観の制度化”です。
私は助産師として女性の人生の入り口に立ち会い、社会起業家として女性の人生後半の経済構造にも向き合ってきました。その中で痛感するのは、日本の年金制度は依然として“男性正規雇用モデル”を基準に設計されているという現実です。
本稿では、女性のライフコースと年金制度のズレ、そして再設計の必要性について整理いたします。
年金は「賃金モデル」に依存している
日本の公的年金は、**国民年金法および厚生年金保険法**に基づいて設計されています。
仕組みは大きく二階建て構造です。
1階:国民年金(基礎年金)
2階:厚生年金(報酬比例)
問題はここにあります。
厚生年金は「賃金」に比例する。つまり、
非正規雇用
パートタイム
育児離職
介護離職
これらを経験しやすい女性は、構造的に年金額が低くなるのです。
「第3号被保険者」という幻想
かつては専業主婦を保護する目的で「第3号被保険者制度」が設けられました。
配偶者が厚生年金加入者であれば、保険料を払わず基礎年金を受け取れる仕組みです。
しかし現代はどうでしょうか。
未婚率の上昇
離婚率の上昇
共働き世帯の一般化
この制度は、もはや女性の経済的自立を前提としない設計の名残です。
守っているようで、実は「依存モデル」を固定化している側面があるのです。
女性は“長生きリスク”を背負う
統計的に女性の平均寿命は男性より長い。
つまり、老後資金がより多く必要です。
しかし、
生涯賃金は低い
年金受給額も低い
単身高齢女性の割合は高い
この三重構造が、女性高齢者の貧困率を押し上げています。
これは個人の努力不足ではなく、制度設計の問題です。
ケア労働は「無償」のままでよいのか
出産・育児・介護。
これらは社会を維持するための不可欠な労働です。
しかし、賃金化されない時間は、年金にも反映されません。
私はここに強い違和感を覚えます。
社会を支えた時間が、老後保障に換算されない構造は持続可能なのでしょうか。
ケアクレジット(育児・介護期間を年金計算に反映する仕組み)の拡充は、避けて通れない議論です。
「自己責任論」では解決しない
「若いうちから投資を」「iDeCoを活用して」
確かに重要です。
しかし、それだけでは足りません。
低所得層・非正規層ほど投資余力は小さい。
制度が前提としている“自助努力モデル”自体が、階層格差を固定化する可能性があります。
再設計の視点① 個人単位課税
税制と年金は連動しています。
配偶者控除や扶養前提の設計は、女性の就労調整を生み出してきました。
本気で女性の経済自立を進めるなら、「世帯単位」から「個人単位」への転換が不可欠です。
これは単なる税制改革ではなく、
“生き方の前提”を変える制度改革です。
再設計の視点② 最低保障の強化
北欧諸国では、低所得高齢者への最低保障が厚い設計が採られています。
年金は保険であると同時に、再分配機能でもあります。
女性高齢者の貧困率を下げるには、再分配の思想を明確にする必要があります。
年金は「人生モデル」の宣言である
制度は中立ではありません。
そこには必ず「想定された人生」があります。
今の年金制度は、
終身雇用
男性世帯主
専業主婦
というモデルを前提に設計された歴史を引きずっています。
しかし現代の女性は、
単身
複業
起業
離婚再婚
非婚
多様なライフコースを生きています。
制度が人生に合わせるのか。
人生を制度に合わせ続けるのか。
私は前者を選びたい。
女性の長い人生を、
“リスク”ではなく“資産”として設計し直す。
年金制度の議論は、
実は「女性の尊厳」をどう守るかという問いなのです。
