女性の経済自立を語るとき、私はこれまで「戦略」や「資産」という言葉を用いてきました。しかし、どれほど個人が努力しても、その土台となる制度が旧来の前提のままであれば、真の自由は実現しません。
税制や社会保険は中立の仕組みのように見えて、実は特定のライフモデルを前提に設計されています。
本稿では、女性の生き方を制限してきた制度設計の構造を見つめ直し、「再分配」という視点から何を変えるべきかを考察します。
税制は価値観の鏡
税制は単なる財源確保の仕組みではありません。
「どの生き方を標準とみなすか」という価値観の反映です。
配偶者控除や扶養制度は、かつての専業主婦モデルを前提に構築されました。しかし現代は、単身女性、共働き、非婚、事実婚など多様な形態が存在します。
制度が過去の標準を前提にし続ける限り、個人の選択は見えない圧力を受け続けるのです。
「第2号被保険者」問題
社会保険制度における第2号・第3号被保険者区分は、一定の保護機能を持つ一方で、就労抑制の要因にもなっています。
「一定額を超えると損をする」という設計は、女性の労働参加を心理的にも経済的にも制限してきました。
守る設計が、結果として可能性を狭める――ここに制度のジレンマがあります。
身体コストは未計上
妊娠・出産・更年期・慢性疾患。
女性の身体にはライフステージごとの負荷があります。しかし税制や労働評価制度は、その“身体コスト”をほとんど織り込んでいません。
医療職として現場を見てきた私からすれば、これは明らかな設計漏れです。
身体の変動を前提にした再分配設計が必要です。
ケア労働の不可視性
家事・育児・介護といったケア労働は、GDPに計上されにくい活動です。
しかし社会を維持しているのは、間違いなくこの領域です。
ケアを「無償の愛」として扱い続ける限り、再分配は不十分なままです。
ケアの経済的価値をどう可視化するかが、制度改革の鍵になります。
単身女性と再分配
単身女性は、税制上“標準モデル”から外れやすい存在です。
扶養制度の恩恵を受けにくく、老後リスクを単独で背負う構造にあります。
今後単身世帯が増加する社会において、世帯単位課税を前提にした制度は限界を迎えます。
「個人単位」への転換が重要です。
税とジェンダー格差
賃金格差がある状態で同一税率を適用すれば、結果的に不均衡は拡大します。
表面上の平等と、実質的な公平は異なります。
ジェンダー視点で税制を分析する「ジェンダー予算」という概念は、今後日本でも本格導入すべき考え方です。
再分配は投資である
再分配を「コスト」と捉えるのか、「投資」と捉えるのか。
女性の就労継続、健康維持、教育機会の確保は、長期的に税収と社会安定を生みます。
短期的な財政均衡だけでなく、世代を超えた持続可能性の視点が必要です。
制度は変えられる
制度は自然現象ではありません。人が設計したものです。
だからこそ、変えることができます。
女性の経済自立を個人努力に委ねるのではなく、制度そのものを再設計する。
それは“優遇”ではなく、社会の持続性を守る合理的選択です。
再分配とは、未来への意思表示なのです。
