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女性活躍推進が語られて久しい現代においても、ひとつ決定的に議論されていない領域があります。それが「女性の身体コスト」です。
月経、妊娠・出産、更年期、慢性痛、ホルモン変動——これらは個人の問題として扱われ続け、企業会計や経営戦略の中にはほとんど組み込まれていません。
しかし、私は助産師として臨床の現場に立ち、そして経営者として組織運営を行う立場から断言します。
女性の身体コストは、すでに企業の“見えない損失”になっているのです。
本稿では、「身体」を個人責任から解放し、経営視点で再定義する必要性についてお伝えいたします。
身体コストとは何か
ここでいう「身体コスト」とは、月経痛、PMS(※月経前症候群)、不妊治療、更年期症状、慢性疲労、睡眠障害など、女性のライフサイクルに伴う身体変動によって生じるパフォーマンス低下や離職リスクのことを指します。
これらは「体調不良」と一括りにされがちですが、実際には周期性と構造性を持つ、生理学的変動です。
つまり偶発的ではなく、予測可能なコストなのです。
“我慢”が前提の職場設計
多くの企業では、暗黙の前提として「常に安定した出力を維持できる身体」を基準に制度が設計されています。
しかし、女性の身体はホルモンの周期によって変動します。
その変動を織り込まない評価制度は、結果的に「波がある=能力が低い」という誤解を生みます。
我慢できる人が残り、我慢できない人が脱落する。
これは能力選抜ではなく、身体耐久力の選抜になっているのです。
経営損失としてのプレゼンティーイズム
「プレゼンティーイズム」とは、出勤しているが体調不良により生産性が低下している状態を指します。
月経痛や更年期症状を抱えながら働く女性は少なくありません。
しかし多くは欠勤せず、無理をして出勤します。
この“見えない生産性低下”は、実は企業にとって大きな損失です。
にもかかわらず、それは会計上どこにも計上されていません。
不妊治療と離職の相関
不妊治療は通院頻度が高く、精神的・身体的負担も大きい医療行為です。
両立が難しく、退職を選択する女性も少なくありません。
企業側は「本人の選択」と捉えがちですが、これは人的資本の流出です。
採用・育成コストを考えれば、本来は防げる損失なのです。
更年期は“終わり”ではない
更年期はキャリア円熟期と重なります。
本来であれば最も経験値が高く、組織にとって重要な人材層です。
しかし体調変動によって自信を失い、管理職を辞退するケースもあります。
これは個人の問題ではなく、支援設計の欠如による構造的損失です。
身体を織り込む制度設計
では何が必要なのでしょうか。
・柔軟な勤務制度
・周期に応じた業務配分
・フェムテック(※女性の健康課題をテクノロジーで支援する分野)の活用
・管理職への身体リテラシー教育
身体を“特別扱い”するのではなく、リスク管理の一環として扱う。
それが経営戦略です。
身体コストは“投資対象”である
健康支援は福利厚生ではありません。
人的資本投資です。
睡眠改善、栄養支援、メンタルケア、ホルモン理解教育。
これらは離職防止とパフォーマンス安定につながります。
短期的にはコストでも、長期的には収益構造を安定させる投資です。
「強い女性像」からの脱却
女性が成果を出すために、男性基準の働き方に適応する必要はありません。
変動する身体を前提に設計された組織こそが、真に持続可能な組織です。
身体を隠す文化は、経営リスクを隠す文化でもあります。
女性の身体コストを会計に入れるという発想は、単なるジェンダー配慮ではありません。
それは、企業の未来価値を守るための経営改革なのです。
