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慢性痛は“自己管理不足”ではない ー見えない身体搾取の構造ー

慢性痛は“自己管理不足”ではない ー見えない身体搾取の構造ー
大阪府 仁蓉まよ 慢性痛は“自己管理不足”ではない ー見えない身体搾取の構造ー

看護・保育・介護——いずれも「人を支える仕事」です。
しかし私は、助産師として周産期医療の現場に立ち、また福祉事業を経営する立場から、長年ひとつの違和感を抱いてきました。それは、ケアを担う人の身体が、あまりにも無防備に使われているという現実です。

2025〜2026年にかけても、医療・福祉分野の人手不足は深刻化し、現場の身体的負担は増しています。慢性腰痛、肩こり、手指のしびれ、疲労の蓄積——それらは「年齢のせい」「運動不足」「自己管理不足」と片づけられがちです。

しかし本当にそうでしょうか。

私はこれを、労働の“身体搾取”構造と捉えています。
本稿では、看護・保育・介護現場における慢性痛の実態とエビデンス、そして再設計の必要性を整理します。

看護現場の慢性腰痛

仁蓉まよ

看護師の仕事は、医療的判断だけではありません。
患者の移乗、体位変換、清拭、処置、長時間の立位、夜勤。身体を使う仕事の連続です。
2025年の医療労働実態調査では、看護職の6〜7割が慢性的な腰痛を経験しているという報告が示されています。これは一時的な疲労ではなく、「繰り返し動作」による累積負荷です。特に高齢患者の増加により、体重負荷は年々高まっています。人を持ち上げるという動作は、椎間板に大きな圧縮ストレスを与えることが整形外科学的にも確認されています。

腰痛は偶然ではありません。
それは“業務設計の帰結”なのです。

介護現場の移乗負担

仁蓉まよ

介護職の慢性腰痛経験率は、施設によっては80%近いという報告もあります。移乗・体位変換・入浴介助。利用者の身体を支える行為は、想像以上に高負荷です。

本来、リフトやスライディングボードといった福祉機器を導入すれば、腰部への負担は大きく軽減できます。実際、機器使用時は腰部筋活動量が有意に低下するという研究結果もあります。
しかし現場では、

・時間に追われる
・機器使用の教育が不十分
・「人の手でやる方が早い」という文化

が根強く残っています。
問題は機器の有無ではなく、「使わせない構造」にあるのです。

保育士の見えない慢性痛

仁蓉まよ

保育は「軽い仕事」に見られがちですが実際は、中腰姿勢・床座り・抱き上げ動作の連続です。
2025年の保育士健康調査では、肩・腰・膝の慢性痛を訴える割合が6割を超えるという結果が出ています。子ども一人は軽くても、それを一日に何十回と抱き上げる。床での遊びに合わせた低姿勢は、脊柱や膝関節に持続的負荷を与えます。

さらに、保育士は常に「笑顔」を求められます。
痛みを抱えながら感情労働を続ける構造は、二重の負担なのです。

慢性痛とバーンアウト

仁蓉まよ

慢性痛は、身体の問題にとどまりません。

2025年のケア労働者調査では、慢性疼痛を抱える職員はバーンアウト傾向が有意に高いことが示されています。痛みは集中力を奪い、睡眠を阻害し、自己効力感を低下させます。「私が弱いのではないか」という自己否定感も生まれやすい。
身体の痛みと心理的疲労は、互いを増幅させる関係にあります。

ケア職の離職問題は、実はこの“痛みの連鎖”と深く関係しているのです。

“休めない文化”の固定化

仁蓉まよ

慢性痛を悪化させる最大要因は、回復できないことです。

2025年の英国看護組合報告では、体調不良でも勤務を続ける看護師が6割を超えるとされています。日本でも同様に、「人がいないから休めない」という構造が存在します。急性痛の段階で適切に休養を取れば回復可能なケースも、無理を重ねることで慢性化します。

“責任感”が、身体を壊していく。
この構造は、ケア職特有の問題です。

女性ホルモンと痛み感受性

仁蓉まよ

ケア労働の多くは女性が担っています。
女性はホルモン変動により、痛み感受性が周期的に変化することが医学的に知られています。PMS期や更年期には、筋骨格系の痛みが増強するケースも報告されています。しかし勤務設計は、これを前提にしていません。

身体のリズムを無視したシフト設計は、慢性痛リスクを高めます。
生物学的特性を考慮しない労働設計は、公平とは言えません。

エビデンスに基づく予防策

仁蓉まよ

慢性痛は予防可能なのです。

・リフト機器の標準化
・正しいボディメカニクス教育
・痛みの早期介入プログラム
・回復時間を保証するシフト勤務設計

これらは研究で効果が確認されています。

重要なのは、「頑張れ」の気合いではなく「守る設計」です。
個人の努力論ではなく、組織の責任論へ転換することが必要です。

慢性痛は構造の結果である

仁蓉まよ

看護・保育・介護現場の慢性痛は、

・反復動作
・人手不足
・回復不足
・文化的圧力
・性差要因

これらが絡み合って生まれています。

私は助産師として、命を支える現場に立ってきた経験があるからこそ言えます。ケア労働が身体を壊す社会は、持続可能ではありません。慢性痛は個人の弱さではない。それは、社会設計の課題です。

労働を「美談」にするのではなく、健康を守る設計へ。
それが、これからのケア経済の最低条件なのです。

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