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共感されない声は、なぜ社会から消されるのか

共感されない声は、なぜ社会から消されるのか
大阪府 仁蓉まよ 共感されない声は、なぜ社会から消されるのか

社会には常に「正しい声」「共感されやすい声」があります。一方で、確かに存在しているのに、聞かれず、扱われず、時には排除されてきた声もあります。
私は助産師として、また女性支援や社会事業に関わる中で、「共感されない」という理由だけで切り捨てられてきた声を数多く見てきました。
本稿では、共感されない声を社会がどのように扱ってきたのか、その構造を整理しながら、私たちが向き合うべき次の段階について考えていきます。

社会は「理解できる声」だけを拾ってきた

仁蓉まよ

社会制度や支援の多くは、「説明しやすい困難」「理解可能な苦しさ」を前提に設計されています。
年齢、属性、背景がわかりやすく、ストーリーとして整っている声ほど拾われやすい。
逆に、矛盾を含み、感情が荒れ、整理されていない声は「扱いにくいもの」として脇に置かれてきました。
これは冷酷さではなく、制度が“処理可能な情報”を求めてきた結果なのです。

「共感されない」は、正しくないという意味ではない

仁蓉まよ

共感されない声は、しばしば「間違っている」「わがまま」「理解不足」とラベリングされます。
しかし、共感されない理由の多くは、声の内容ではなく、それが既存の価値観や秩序を揺るがすからです。
結婚しない、子どもを持たない、頑張らない、成長しない。
これらは社会にとって不都合であり、だからこそ共感の外側に追いやられてきました。

女性の声は「感情管理」まで求められてきた

仁蓉まよ

特に女性の声には、「冷静であること」「配慮があること」「感謝を伴うこと」が暗黙に要求されてきました。
同じ主張でも、言い方が強い、怒っている、疲れているというだけで、その声は価値を失ったものとして扱われます。
これは内容ではなく、“態度”によって正当性が判断されてきたということです。
感情を持つこと自体が、社会参加の足かせになってきた構造は、今も根深く残っています。

支援の現場で切り落とされる声の特徴

仁蓉まよ

支援の現場では、「支援しやすい人」が優先されがちです。
期限を守る、説明を理解する、前向きである、変わろうとする。
その条件から外れた瞬間、支援は難航し、やがて「対象外」とされることもあります。
しかし、最も声が荒れ、矛盾を抱え、拒否的になる人ほど、実は支援が必要な状態にある。
ここに、制度と現実の大きなズレがあります。

共感は“道徳”ではなく“社会技術”である

仁蓉まよ

共感は美徳のように語られますが、実際には高度な社会技術です。
どの声に共感を向け、どの声を切り捨てるか。
そこには、資源配分、政治判断、組織防衛といった現実的な力学が働いています。
共感されない声は、道徳的に劣っているのではなく、「社会がまだ扱う技術を持っていない声」なのです。

共感されない声は、社会の未成熟を映す鏡

仁蓉まよ

共感できないという反応は、個人の冷たさではありません。
その声を受け止める枠組み、言語、制度が未成熟であるというサインです。
過去には、DV被害、産後うつ、ハラスメントも「理解不能な声」とされてきました。
共感されなかった声は、後に社会を前進させる起点になってきたのです。

「聞かれない声」を持つ人に起きていること

仁蓉まよ

共感されない経験が積み重なると、人は声を上げなくなります。
怒りは諦めに変わり、やがて無関心を装うようになる。
これは個人の問題ではなく、社会的な沈黙の生成プロセスです。
声を上げない人が増えるほど、社会は「問題がないように見える」状態に近づいていきます。

共感の先に必要なのは「扱える社会」

仁蓉まよ

これから必要なのは、すべてに共感する社会ではありません。
理解できなくても、好ましくなくても、「存在として扱う」社会です。
共感は入口にすぎず、ゴールではない。
共感されない声を排除せず、摩擦を前提に置いた制度や対話を設計できるかどうか。
そこに、成熟した社会の分かれ道があります。

共感されない声は、社会にとって不都合なノイズではありません。
それは、次に変わるべき場所を指し示す、最も正直なサインなのです。

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