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刑事司法という言葉は、一般の生活から少し距離を感じるかもしれません。しかし、支援が必要な女性たちの現場に向き合ってきた私にとって、この領域は決して「特別な場所」ではなく、社会の中に確実に存在する“もうひとつの現実”なのです。
DV、虐待、貧困、依存症、シングルマザー、若年妊娠——これらの背景から刑事司法につながってしまう女性は少なくありません。そして、その多くは「本来支えられるべき領域」で支えられず、最後にたどり着くのが司法の現場なのです。
本稿では、刑事司法と女性支援がなぜ切り離せないテーマなのか、そして社会・企業・行政がどう関わるべきかについてお話しいたします。
“加害者”の前に、“支援が届かなかった女性”がいる
私が福祉事業に関わる中で痛感するのは、「犯罪」と呼ばれる行動の前に、必ず“支援空白の時間”が存在していることです。
そこでは、DV被害、経済的困難、依存症、孤立、精神的疲弊、育児ストレスなどが積み重なり、SOSを発する余裕すらないまま、追い詰められてしまう女性たちがいます。
刑事司法につながる女性の多くは、「選ばなかった」のではなく「選べなかった」。
これは、女性の自己決定権を支える社会の構造がまだ十分に機能していないことを示しているのです。
刑務所の女性増加は“社会課題の見えないサイン”
日本の女性受刑者は全体から見れば少数ですが、近年、再犯率の高さや背景要因の複雑化が課題となっています。
特に、薬物依存、貧困、孤立、家族からの断絶といった“複合的困難”が重なりやすいのが特徴です。
刑務所の中で見えるのは、女性自身の問題というより、**支援・教育・居場所の欠如が累積した結果としての「社会の映し鏡」**なのです。
「母親」である女性が刑事司法に入るという現実
周産期医療や母子支援に関わってきた中で、
「母親が刑事司法につながること」は想像以上に多くの波紋を広げることを実感してきました。子どもの一時保護、養育環境の再設計、支援者の引き継ぎ、行政の判断…。
母親が抱えていた課題が顕在化し、周囲の支援体制の脆弱さが露呈します。
つまり、刑事司法と母子支援は本来、切り離せない一本の線なのです。
再犯防止支援の本質は「生活の再建」である
再犯防止と聞くと、厳罰化や監視強化といったイメージを抱かれる方も多いかもしれません。
しかし、私が福祉現場で見てきたのは、住まい、仕事、コミュニティ、健康、メンタルケア——この5つの生活インフラが整わなければ、人は何度でも同じ困難に戻ってしまうという現実です。
特に女性の場合、「安全な住居」と「安心できる人間関係」の欠如は再犯のリスクを著しく高めます。
再犯防止とは、罰ではなく生活の再設計そのものなのです。
ジェンダーに応じた支援設計が不可欠
刑事司法の現場は、まだまだ「男性前提」に設計されている部分が多くあります。
女性特有の健康課題、性被害経験、月経管理、更年期、妊娠、育児、パートナー暴力など、女性ならではの背景要因が十分に考慮されていません。
助産師として感じるのは、女性の身体と心を理解した支援者が司法現場にもっと必要だということ。
医療・福祉・司法の連携が進むほど、女性の“再スタートの質”は大きく変わります。
「住まい」と「雇用」が未来を左右する
女性が刑事司法から社会に戻るとき、大きな壁となるのが住まいと仕事です。
保証人がいない、家族との関係が切れている、精神疾患がある、子どもを育てている——
こうした背景を抱える女性にとって、一般的な住宅や雇用の条件は非常に厳しいものです。だからこそ、福祉的就労・多様な働き方・女性向けセーフティ住宅といった仕組みが社会の基盤となる必要があります。
住まいと仕事は、女性にとって“人生の安全保障”なのです。
企業こそ、刑事司法と女性支援の重要なプレイヤーになる
企業が関わる余地は、実は非常に大きいのです。
採用の機会、研修、メンタルケア、コミュニティづくり、金融教育、リスキリング…。女性の再スタートを支えることは、企業にとっても ESG・DE&Iの実践そのものになります。
社会課題に向き合う企業は、必ず女性からの信頼を得ます。
「一度つまずいた女性を、社会の一員として迎える組織」この姿勢こそ、企業ブランドの未来価値を決めると言っても過言ではありません。
刑事司法×女性支援は、“やり直せる社会”をつくる基盤である
刑事司法につながる女性を見つめるということは、「支援が届いていない領域」を見つめるということです。
そこには、孤立・貧困・暴力・健康問題・家族関係・教育格差など、複雑に絡み合う課題があります。
しかし同時に、女性の再スタートを支える仕組みを整えることは、社会全体の“安全性と豊かさ”を底上げする行為でもあります。
刑事司法×女性支援は、特別なテーマではなく、“誰もがやり直せる社会”という、私たちが目指すべき未来の土台なのです。
