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私はこれまで、助産師として「命と向き合う現場」から、経営者として「組織を育てる現場」まで、さまざまなフィールドを経験してきました。
その中で感じるのは、これからの社会における経営の中心軸が「利益」から「幸福(ウェルビーイング)」へと移行しているということです。
そしてその変化を最も敏感に、現実的に進めているのが、女性たちなのです。
本稿では、「ウェルビーイング経営」という新しい視点から、女性リーダーが社会にもたらす変化を考えます。
「ウェルビーイング経営」とは何か
「ウェルビーイング」とは、単なる健康や満足度ではなく、「心・身体・社会的な調和が取れている状態」を指します。
これを企業経営に応用したのが「ウェルビーイング経営」です。
つまり、社員の幸福を重視することで生産性と創造性を高め、長期的に持続可能な組織を育てるという考え方です。
この概念は世界的に注目されており、ESG投資や人的資本経営とも深く結びついています。
女性が導く“関係性の経営”
女性リーダーの多くは、「競争より共創」「命令より共感」といった価値観で組織を動かします。
このスタイルは、従来のヒエラルキー型経営よりも、心理的安全性やチームの自律性を高める効果があります。
つまり、ウェルビーイング経営の本質である“関係性の質”を高める役割を担っているのです。
経営は、数字ではなく“人のつながり”によって成り立つ時代に入っています。
「幸せの定義」を再設計する
従来の経営では、「成果=幸せ」という単線的な構図が一般的でした。
しかし、女性たちは「安心して働ける」「自分らしくいられる」「社会に貢献できる」といった多層的な幸福を重視します。
この“幸せの再定義”こそが、組織文化を変える原動力になります。
幸せは、測るものではなく“デザインするもの”へと変わっているのです。
ケアと経営は、対立しない
医療や福祉の現場では、「ケア」と「効率」が相反するものとして扱われてきました。
しかし私は、両者は本来、共に成長しうるものだと考えています。
ケアの視点を経営に取り入れることで、社員の健康維持だけでなく、モチベーションや離職率にも良い影響を与えます。
“人を大切にする経営”は、最も再現性の高い経済戦略なのです。
数値化できない価値をどう扱うか
ウェルビーイング経営では、「信頼」「共感」「安心」といった“非数値的価値”をいかに可視化するかが課題になります。
この点で、データ分析やAIツールを活用した“感情データ”の研究が進みつつあります。
しかし、最終的にそれを解釈し、温度を持った判断に変えるのは“人間の感性”です。
ここにこそ、女性リーダーの強みが発揮されます。
「ケア経営」が拓く次世代の組織
これからの時代、企業の評価基準は「利益を出す会社」から「人を育てる会社」へと変わります。
ウェルビーイング経営は、“ケアする力”を軸とした新しい経営哲学です。
それは、社員を守るだけでなく、社会全体の幸福度を引き上げる装置にもなります。
つまり、“経営=ケア”というパラダイムシフトが、次世代のリーダーシップの鍵を握っているのです。
女性のリーダーシップが変える組織文化
女性が経営の中枢に立つと、「共感」「対話」「柔軟性」が組織に根づきます。
それは単なる“女性らしさ”ではなく、人間の本来の力を引き出すマネジメントです。
多様な価値観を包摂しながら、全員が安心して自己実現できる環境を設計する。
この姿勢が、ウェルビーイング経営の最も実践的な形なのです。
幸せの経営は、“未来を育てる”経営へ
ウェルビーイング経営の目的は、「社員を幸せにすること」ではなく、「幸せを循環させること」です。
企業が人を大切にすれば、その人が社会を大切にする——。
この循環が生まれることで、社会全体が健やかに成長していく。
女性たちが築くウェルビーイング経営は、まさに“未来を育てる経営”なのです。
