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私は、医療現場や福祉事業、そして女性のキャリア支援の現場を通じて、「回復力=レジリエンス」の価値を何度も見てきました。
困難を乗り越える力は、個人の内面の問題ではなく、社会の構造そのものを強くするエネルギーなのです。
いま、世界が注目しているのは「レジリエンス経済」——つまり、人・組織・社会が変化や危機から“しなやかに立ち上がる力”を持つ経済モデルです。
本稿では、その中で女性たちが果たす重要な役割について考えていきたいと思います。
女性の「レジリエンス」は日常から生まれる
女性たちの回復力は、特別な訓練からではなく、日々の生活や人との関わりの中から育まれています。
出産、育児、介護、キャリアの中断と再出発——そうしたライフイベントを通じて、女性は何度も「立ち上がる経験」を積んでいるのです。
医療者として現場を見てきた私は、その力を「社会的レジリエンス」と呼んでいます。
つまり、個人の頑張りに留まらず、他者を支える循環へと変えていく力です。
経済の新しい尺度は「回復する力」
これまでの経済は「拡大」や「成長」が指標でした。
しかし、パンデミックや気候危機、AIの急速な進化など、変動が常態化する時代には、「壊れにくさ」「再生の速さ」「他者との支え合い力」が新しい価値指標になります。
レジリエンス経済とは、まさに“強さではなく、しなやかさ”を基準にした経済構造なのです。
女性がもつ“共感力”と“回復力”の相乗効果
女性は、共感力と回復力の両方を持ち合わせています。
共感によって他者を理解し、回復力によって困難を再構築する。
この2つの力が融合すると、「ケア」「教育」「地域経済」「企業文化」など、あらゆる分野において持続的な変革を生み出すことができます。
共感だけでは支えきれず、強さだけでは分かち合えない。
このバランスこそが、レジリエンス経済の中核を担う女性の力なのです。
「失敗から立ち上がる経済」への転換
従来の経済では、「失敗」は避けるべきものとされてきました。
しかし、レジリエンス経済では、むしろ「回復のプロセス」に価値が置かれます。
事業の立て直しやキャリアの再出発を「敗北」ではなく「再構築」と捉える発想。
女性起業家の中には、育児や介護などで一度キャリアを離れた経験を持つ人も多くいますが、彼女たちこそが、変化を柔軟に乗り越える経済の担い手なのです。
レジリエンスは「つながりの経済」から生まれる
個人の回復力を社会の力に変えるには、「つながりの仕組み」が必要です。
地域での相互扶助、オンラインコミュニティ、企業のウェルビーイング経営など、
“孤立させない設計”が社会のレジリエンスを高めます。
つまり、レジリエンス経済とは、技術や制度だけでなく、関係性のデザインによって支えられる経済なのです。
福祉・医療・教育が牽引する“回復経済”
福祉・医療・教育の現場は、常に「壊れたものを立て直す」領域です。
この領域こそ、レジリエンス経済の最前線にあります。
ケアを経済の周縁に置くのではなく、中心に据えること。
「ケアする力」こそが、社会の持続可能性を支える資本になるという視点が、これからの時代に求められます。
レジリエンス教育が未来を変える
子どもたちに「正解を覚える教育」ではなく、「立ち上がる力を育てる教育」を届けること。
それは単にメンタルの強さではなく、問題に直面したときに「助けを求める」「人と協働する」「別の道を描く」といった柔軟な思考を育てることです。
レジリエンス教育は、キャリア教育やジェンダー教育とも深く結びついており、未来社会の基盤づくりそのものなのです。
“壊れにくい社会”から“何度でも再生できる社会”へ
私たちはもう、「壊れない社会」をつくることはできません。
むしろ重要なのは、「何度でも立ち上がれる社会」をデザインすること。
女性たちが日々の暮らしの中で見せているしなやかな回復力を、
社会の設計思想そのものに取り入れていく——それが「レジリエンス経済」の本質です。
この価値観を共有することこそが、未来の安心を支える最大の経済戦略になるのです。
