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私は助産師として長年「命の誕生」に寄り添ってきました。
その一方で、キャリア支援や福祉・地域デザインの現場に立つと、近年増えているのが「子どもを持たない」という選択を自ら行う女性たちです。
この選択は、決して“母性の否定”ではありません。むしろ、自分の生き方・価値観・社会との関わり方を主体的に選ぶという、極めて成熟した意思決定です。
本稿では、“非母性”という言葉に新たな意味を与え、これからの社会がどう多様な生き方を支えうるかを考えたいと思います。
「子どもを持たない」という選択が増えている背景
晩婚化・不妊治療の長期化、経済的不安、キャリア形成の難しさ——こうした社会的背景の中で、“子を持たない”という生き方を選ぶ女性は確実に増えています。
それは「諦め」ではなく、「自分の幸福の形を自ら定義する」選択です。
この動きは個人の問題にとどまらず、社会全体の価値観の転換点を象徴していると私は感じています。
“母性”だけが女性の価値ではない
日本社会にはいまだ、「女性=母親」「母性=優しさの象徴」といった固定的な文化観があります。
しかし、母性とは本来“生命を育む力”であり、それは子どもを産むことだけを意味しません。
仕事やアート、地域活動、後進育成など——多様な形で他者に寄り添い、社会に貢献する力もまた“母性の拡張形”なのです。
“非母性”は社会的ケアの新しい形
子を持たない女性たちは、時間・労力・感情を社会活動に注ぎ込むケースが多く見られます。
地域福祉、教育、動物保護、環境活動など——彼女たちの「他者へのケア」は、家庭の枠を超えた公共的な母性の発露とも言えます。
つまり、“非母性”は「無関係」ではなく、「社会へのケア」を拡張した新しい形なのです。
キャリアとライフデザインの再定義
「子どもを持たない」という選択をした女性は、キャリア形成やライフデザインをより戦略的に設計します。
自分の人生を“時間”と“エネルギー”の配分で最適化し、社会貢献やクリエイティブな活動に力を注ぐ。
この姿勢は「自立」と「社会貢献」を両立する、新しいリーダーシップの形でもあります。
社会構造の側の“想定不足”
一方で、行政・企業・メディアの制度設計は、いまだに「結婚・出産・育児」を前提に構築されています。
税制・福利厚生・保険制度・地域支援——すべてが“家族単位”中心のままでは、「非母性世代」は支援の枠外に置かれてしまう。
社会全体が、ライフコースの多様化に合わせた“包摂的デザイン”へ転換する必要があるのです。
“共感”を軸にした社会の再設計
私が理想とするのは、「母であるか否か」に関係なく、“ケアを共有する社会”です。
血縁や属性ではなく、「共感」でつながる支え合いのネットワーク。
教育・医療・地域づくり・経済のあらゆる場において、“生き方の多様性”を支える構造が求められています。
非母性の価値を社会がどう評価するか
「母でない女性」が社会的に正当に評価されるには、
労働・文化・ケア・地域活動といった多様な貢献を“見える化”することが重要です。
感情労働や共感労働を「生産性の外」に置くのではなく、社会的資産として再評価する仕組みが必要です。
“非母性”は次世代を支える力になる
“非母性”とは、未来を諦めた生き方ではなく、
「未来を多様に支える」新しい形の母性なのです。
血縁にとらわれないケアのあり方、次世代への教育的貢献、地域社会との協働——
それらはすべて、社会をよりしなやかに、持続可能にしていく力です。
女性が自らの生き方を選び、それぞれの形で社会に関わること——それこそが、成熟した社会デザインの出発点だと私は考えています。
