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私は助産師として医療現場に立ち、福祉事業の経営にも携わる中で、いつも感じるのは——「地域を支えているのは、ケアする人たち」だという事実です。
しかし、現実にはケアを担う人々の仕事は“支援”として語られ、経済やまちづくりの中心からは置き去りにされがちです。
本稿では、「ケアする力」がいかに地域の未来を形づくり、これからの共生社会を動かす“主役の資本”であるかをお伝えしたいと思います。
ケアは「支援」ではなく「社会構造」である
日本では長く、介護・保育・福祉といった分野が「支援」や「奉仕」として捉えられてきました。
けれども、ケアとは本来、人間の生存と関係性をつなぐ“社会構造”そのものなのです。
誰かを支えるという行為は、同時に地域の経済・雇用・学び・つながりを再生する行為でもあります。
ケアを「経済外の活動」として扱う限り、地域は持続可能にはなりません。
ケアする人の感情知性が、地域の質を決める
AIや自動化が進む中でも、ケアの現場に必要とされるのは“共感”“聴く力”“察する力”といった感情知性です。
これはテクノロジーが代替できない、地域社会の「文化的資産」でもあります。
福祉や医療、教育、保育の現場で働く人々は、単なるサービス提供者ではなく、地域の安心・希望・人間関係をデザインするプロフェッショナルなのです。
ケアを軸にした地域経済の再生
介護や障がい福祉、保育、訪問看護といった分野は、地域における雇用創出の基盤でもあります。
一つの福祉事業所が地元の商店や食材業者、教育機関、金融機関とつながることで、経済循環が生まれます。
「ケアすること」が地域経済を動かす装置になる——それが“ケア経済”という新しい考え方です。
この視点に立てば、ケアは「負担」ではなく「再生のエンジン」なのです。
「共創型ケア」が生む、新しい地域のかたち
共生社会の実現には、行政・企業・市民・医療・教育の枠を超えた“共創”が必要です。
例えば、障がい福祉事業所が地域のカフェや企業と連携して商品開発を行ったり、介護施設が保育園や大学と協働して学びの場をつくるような取り組みです。
ケアが一方的な「支援」から、共に生きる「創造」へと変わるとき、地域社会は多様性を力に変えていきます。
ケアする人を“社会の主役”に据える政策へ
地域共生社会を本気で進めるには、ケアに関わる人たちを「支える側」ではなく「社会を動かす側」として再定義する必要があります。
そのためには、待遇改善や人材育成だけでなく、「ケアを経営・教育・テクノロジーと結びつける仕組み」づくりが欠かせません。
ケアする人たちが尊重され、誇りを持てる社会こそが、共感を軸にした“持続可能な地域”のかたちなのです。
「ケアの循環」が地域を豊かにする
ケアは一方向ではなく、連鎖します。
誰かが誰かを支えると、その人もまた他者を支えたくなる。
この“ケアの循環”こそが、孤立を防ぎ、地域に信頼を取り戻す力となります。
地域共生社会とは、制度や施設のことではなく、「人と人が支え合うことを誇りに思える文化」を再生することなのです。
ケアを「未来をつくる仕事」として語ろう
これからの社会では、ケア分野に関わる若者や女性が「自分の仕事が社会を変えている」と実感できる環境が必要です。
“お世話する仕事”ではなく、“未来を設計する仕事”としてケアを語る。
この意識転換が進めば、福祉や介護の現場はもっと創造的で、経済的にも魅力あるフィールドになります。
ケアする人こそ、未来のリーダーである
ケアを軸に地域を見つめ直すと、リーダーとは「共感と責任をもって関係をつなぐ人」だとわかります。
地域共生社会は、競争ではなく協働のリーダーシップによって支えられる。
そしてその中心にいるのが、“ケアする人”たちなのです。
彼らが主役となる社会こそ、人間らしい豊かさと持続性を備えた未来社会の原型です。
