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私は助産師として医療現場に立ち、同時に企業や行政と連携しながら女性のキャリア・経済自立支援を行ってきました。
その中で痛感するのは、「月経」や「性教育」というテーマが、依然として“個人の問題”や“学校教育の一部”として扱われがちであるという現実です。
しかし本来、月経や性教育は“社会の生産性”と“経済の未来”を左右する極めて重要な社会投資なのです。
本稿では、月経・性教育を「人材戦略」「経済戦略」として位置づける視点をお伝えいたします。
月経を“健康指標”として捉える社会へ
月経は、女性の身体だけでなく社会の健康度を映す鏡です。
排卵障害やPMS(月経前症候群)、月経困難症などの背景には、働き方やストレス、栄養状態、社会的サポートの欠如が密接に関係しています。
つまり、月経データを活用することは、女性一人ひとりの健康管理を超え、社会全体の健康資本を可視化することに繋がります。
企業にとっても、月経やホルモン変動に配慮した職場環境の整備は「生産性の向上」と「離職防止」という、明確な経済メリットをもたらすのです。
性教育は“人材育成”の最前線である
性教育というと、「避妊」や「感染症予防」という枠で語られることが多いですが、本質はもっと広く、「身体と心の境界を知る教育」であり、「自分と他者の尊厳を学ぶ教育」です。
この力は、ビジネスにおけるコミュニケーション、対人関係、リーダーシップの基礎となります。
性教育とは、すなわち**“人間理解力”を育てる教育**。
これを軽視することは、社会の感情知性(エモーショナル・インテリジェンス)を失うことに等しいのです。
「無知のコスト」は、社会全体の損失になる
月経や性に関する知識が不足していることによる「無知のコスト」は、思春期から更年期まで、あらゆる世代で経済損失を生んでいます。
例えば、月経痛による欠勤やパフォーマンス低下、避妊の失敗によるキャリア中断、不妊治療への遅れなど——。
これらはすべて、教育機会の欠如から生まれる構造的損失です。
月経・性教育は、“個人の選択肢を広げる”だけでなく、“社会の生産性を守る”ためのインフラ投資といえるでしょう。
経済戦略としての「性教育リテラシー」
企業が次世代人材を育成する際、語学・DXスキルと同様に、性教育リテラシーを組み込むべき時代が来ています。
性教育の本質は、「自分と他者の境界を尊重する力」を育てること。
これは、ハラスメント防止、チームマネジメント、ジェンダーバランス経営のすべてに直結します。
性教育とは、感情と合理性のバランスを学ぶビジネス教育なのです。
教育・医療・企業の“三位一体モデル”が必要
月経・性教育の推進には、学校教育だけでなく、医療機関と企業が連携した「社会教育モデル」が不可欠です。
たとえば、医療従事者による企業研修、学校でのキャリア教育と性教育の統合、行政による啓発支援など。
それぞれが部分的に動くのではなく、“ライフステージ横断型の学び”として構築することが重要です。
これは単なる啓発活動ではなく、「社会的リテラシーの再教育」なのです。
女性の“生き方設計”を支える基盤投資
性教育を受けた女性ほど、キャリアや出産、パートナーシップにおいて主体的な意思決定を行いやすいという研究結果があります。
つまり、月経・性教育とは「未来を選ぶ力」を育てる教育であり、女性の生き方設計を支える社会的インフラなのです。
企業や行政がこの分野に投資することは、単なるCSRではなく、長期的な経済価値の創出と直結しています。
男性教育を含めた“共育”が鍵になる
月経や性の話題を「女性の問題」として限定するのは、もう時代遅れです。
男性が生理休暇やホルモン変動の仕組みを理解し、共に働く仲間として支える社会こそが、真に持続可能な職場環境をつくります。
性教育とは「共に学ぶ教育」——男女が協働する未来を支える社会基盤づくりそのものなのです。
“タブー”を超えた先にある、成熟した社会へ
月経や性に関する話題を「恥ずかしい」「触れてはいけない」として避ける社会では、真の平等も健康も実現しません。
私たちが今、求められているのは、タブーを解く勇気と、それを支える構造設計です。
月経・性教育を“社会投資”として位置づけることで、女性一人ひとりの可能性が経済の力へと変わる。
それは、福祉でも教育でもなく——未来社会の“戦略”なのです。
