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私が助産師として地域医療に関わり、さらに福祉事業・不動産・イベント企画・都市デザインの現場を横断してきた中で、ずっと見落とされてきた課題があります。それは「女性の移動(モビリティ)がキャリアと生活の質を大きく左右している」という現実です。
移動手段が“選べる”かどうかは、働き方・健康・学び・人間関係すべてに影響します。本稿では、女性のモビリティとキャリア形成の関係性を、社会起業家としての視点から整理したいと思います。
移動は“働き方の自由度”を決める基盤
私が福祉現場で何度も見てきたのは、移動手段の乏しさが女性の就労を妨げるケースです。電車が少ない、車が運転できない、子どもの送迎との両立が難しい——。これらは単なる不便ではなく、「働く選択肢」を奪う要因なのです。
キャリア形成には“自由度”が必要ですが、その自由度の土台には必ず「移動の自由」があります。
地方女性の課題は“交通格差”に凝縮されている
都市部では公共交通が比較的整っていますが、地方では「移動=家族依存」となるケースが多々あります。
助産の現場でも、妊婦健診に行けない、緊急時にタクシーが捕まらないといった課題が日常的に起きています。
移動手段の不足は、医療・福祉・教育へのアクセス不平等につながり、結果的にキャリア格差も生み出すのです。
カーシェア・EVは女性の“経済自立ツール”になる
近年、車を「所有する」時代から「必要なときに使う」時代へと変わりつつあります。
カーシェアやEV(電気自動車)は、維持費を抑えながら行動範囲を広げられるため、特に地方での女性の経済自立に寄与します。
移動手段が1つ増えるだけで、働ける範囲が増え、習い事や学び直しにもアクセスしやすくなるのです。
電動自転車・キックボードは“時間戦略”を変える
都市部に住む女性にとって、電動自転車や電動キックボードは“時間の節約ツール”としての価値が高まっています。
「電車+徒歩」の移動を短縮し、保育園送迎と仕事の往復を効率化できる。
これは、精神的な余裕と体力の温存につながり、結果的にキャリア継続率を高める役割を果たします。
育児期の移動制約は“孤立”を生みやすい
乳幼児期の女性の孤立は、移動困難と深く結びついています。
ベビーカーでの移動、公共交通の混雑、車の運転不安などが積み重なることで、外出そのものがストレスになる。
私は助産師として、外出できないことで産後うつが悪化したケースを何度も見てきました。
移動支援は、メンタルヘルスの視点からも極めて重要なのです。
“移動の選択肢”がコミュニティ参加の質を変える
女性はコミュニティの中で学び、関係性を築き、キャリアを育てていきます。
しかし、移動が制限されると、オフラインの出会いや学びの機会を逃してしまいます。
カーシェア、レンタサイクル、シェアモビリティが拡大することは、女性が「自分のタイミングで」コミュニティにアクセスできる未来をつくります。
モビリティは“キャリアの再構築”にも影響する
転職、副業、学び直し。
人生の再スタートには、必ず移動が伴います。
福祉事業でも、不動産でも、都市部と郊外を行き来できる女性ほど、キャリアの選択肢が広がり、意思決定が柔軟になる傾向があります。
移動は、“環境を変える力”を女性に与えるのです。
移動の自由が“生き方の自由”を広げる
私がこれまで多様な現場で感じてきたのは、女性のキャリア課題は“移動”に集約されるという事実です。
移動できれば、働ける。
移動できれば、学べる。
移動できれば、つながれる。
モビリティは、生き方の選択肢そのものを拡張するインフラなのです。
女性の人生を支えるのは、特別な施策だけではありません。「移動の自由」を整えることは、最も基本でありながら、最も強力なキャリア支援なのです。
