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2025年10月1日、育児・介護休業法が改正されました。
今回の改正では、企業に対し「妊娠・出産の申出を受けた段階で、個別に育休取得の意向確認や制度説明を行うこと」が義務づけられました。
さらに、子どもが3歳になるまで、労働者の意向聴取と働き方への配慮が求められます。
これは単なる制度改正ではなく、「キャリアと家庭の両立を“自己決定”として支える社会」への転換点なのです。
本稿では、助産師・キャリア支援者の視点から、この改正がもたらす女性キャリアへの影響と、企業・社会の実践課題について整理します。
「妊娠・出産の申出時」から支援が始まる時代
これまで多くの女性は、妊娠報告のタイミングで職場との関係に不安を感じてきました。
今回の改正では、妊娠や出産の申出があった時点で、企業側が育児休業制度の内容を説明し、本人の意向を確認する努力義務が課されました。
つまり、支援の起点が「出産後」ではなく「妊娠期」に前倒しされたのです。
プレコンセプションケアの考え方と通じる、“早期支援”の発想が、法律レベルで明確になったことは大きな前進です。
「3歳までの意向聴取」はキャリア継続支援の鍵
改正法では、子どもが3歳になるまでの間に少なくとも複数回、出産時と、子どもが3歳になる前(3歳の誕生日の一か月前までの1年間の2回のタイミングで)、本人の就業意向を聴取し、柔軟な働き方を検討することが求められています。
これは、「育休を取って終わり」ではなく、「復職後のキャリア再設計」を制度的に支える仕組みです。
たとえばパナソニックグループやユニリーバなどでは、復職前カウンセリングや柔軟勤務制度をすでに導入しており、改正法はそれらを社会全体に広げる後押しとなります。
「対話」が法的義務になるという意義
今回の法改正で最も重要なのは、企業と労働者の「対話」が明文化された点です。
これまで制度として存在していても、職場文化や上司の理解不足で形骸化していたケースが多くありました。
今後は、面談記録や説明履歴を残すことが企業の義務となり、対話が“エビデンス”として評価される時代になります。
これは、女性が安心して声を上げられる構造を作る第一歩なのです。
男性育休との“連続性”をどう設計するか
2022年から段階的に整備されてきた「産後パパ育休」との接続も重要ですが、今回の改正は、男性育休の取得促進をさらに後押しする狙いがあります。
企業によっては、夫婦が交互に育休を取得できる「シェアリング型育休制度」を導入する動きも出ています。
つまり、育休は“女性だけの制度”から“家族キャリアの共同設計”へと変わろうとしているのです。
中小企業が直面する「運用格差」
一方で、すべての企業がこの改正にすぐ対応できるわけではありません。
中小企業では、管理職層の人材不足や代替要員の確保、勤務時間や内容の工夫が課題となっています。
厚生労働省は「中小企業両立支援助成金(育児休業等支援コース)」を拡充し、制度運用の負担を軽減する支援策を打ち出しています。
法律の実効性を高めるには、このような中小企業支援と現場理解が不可欠です。
医療・福祉現場での「育休支援設計」
医療・福祉分野は慢性的な人手不足の中で、育休取得が難しい現場のひとつです。
しかし、近年は一部病院で「チーム交代制」や「復職前リハビリ勤務制度」を導入する動きも見られます。
たとえば、東京都内のある周産期センターでは、妊娠報告時から復帰後半年までを一貫して支援する「ライフイベント相談窓口」を設置しています。
こうした実例は、法改正を「現場力」で支える好事例として注目されています。
キャリア支援とメンタルケアの両輪が必要
制度が整っても、実際の復職では心理的ハードルが残ります。
「迷惑をかけた」「ブランクが不安」とネガティブに感じる女性は少なくありません。
だからこそ、キャリアカウンセリングやメンタルサポートの仕組みが欠かせません。
企業の中には、産後社員にコーチングセッションやキャリアデザイン研修を提供する例も増えています。
“制度の支援”から“心理の支援”へ。両輪でのアプローチが女性キャリアを守ります。
「育休」は“離脱”ではなく、“再設計”の期間へ
これまでの社会では、育休は「キャリアから離れる時間」として語られてきました。
しかし、今回の法改正は、育休を「再設計のための時間」として再定義する契機でもあります。
自己理解・スキル再習得・ネットワークづくりなど、復職に向けた準備を支援する制度が拡充すれば、育休はむしろ“キャリアの進化期間”になります。
育休制度の整備は、単なる子育て支援ではなく、「人生を自分で選ぶ力」を支える社会戦略なのです。
※この内容は、2025年10月1日時点で実際に施行済みの改正内容と、**厚労省・企業実例・助成制度(中小企業両立支援助成金)**に基づいて構成しています。
