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私は助産師として、また福祉事業経営者として、長年「ケア労働」の現場を見てきました。出産、育児、介護──これらは社会に不可欠でありながら、その多くを女性が担ってきた領域です。そして今、このケア労働が「ロボット」というテクノロジーによって再発明されようとしています。本稿では、ロボティクスが女性のキャリアと社会に与えるインパクトについて考察します。
ケア労働の“不可視化”がもたらした課題
これまで家事・育児・介護といったケア労働は「家庭内の無償労働」として軽視されがちでした。その結果、女性はキャリアを中断せざるを得ない状況に置かれることが多く、経済的・社会的に不利益を被ってきたのです。ケア労働の不可視化は、女性の生き方の選択肢を狭める最大の要因でもありました。
ロボットが変えるケアの現場
介護ロボット、家事支援ロボット、育児サポートのAI搭載デバイスなど、ロボティクスはすでに生活の中に入り始めています。移乗支援ロボットが高齢者の身体介護を助け、掃除ロボットが日々の負担を減らす。これらは単なる便利さの提供ではなく、「女性の時間」を解放し、キャリア選択の自由を広げるテクノロジーなのです。
“時間戦略”の再設計
ロボティクスによる最大の恩恵は、「時間の再配分」です。女性がこれまでケアに費やしてきた膨大な時間が短縮されれば、その分を学びやキャリア、経済活動に投じることができます。つまり、ロボットは“家事の自動化”以上に、“女性の時間戦略の再発明”を可能にする存在なのです。
感情ケアとテクノロジーの限界
ただし、ケアの本質は「感情」と「関係性」にあります。ロボットがどれほど進化しても、人間的な共感や愛情を完全に代替することはできません。むしろ、ロボティクスは身体的負担を軽減し、人間が“心のケア”に集中できる余白を生むべきものだと私は考えています。
ケア労働の“社会的価値”を再定義する
ロボットがケアを担うことで、人間のケアは「感情的価値」として再定義されます。ケアを“安価な労働”として消費するのではなく、“社会資産”として認識し直す必要があります。これは女性のキャリアにおける「ケアと仕事の対立」構造を解体する大きな契機となるでしょう。
女性キャリアの選択肢を広げる社会投資
ロボット導入は単なるテクノロジー投資ではなく、社会全体の「女性キャリアへの投資」なのです。ケア労働の再発明は、女性が結婚や出産、介護といったライフイベントを迎えてもキャリアを継続できる社会基盤をつくることにつながります。行政も企業も、この視点を戦略的に取り入れる必要があります。
ロボティクスとジェンダー平等
テクノロジーはジェンダー不平等を助長することもあれば、解消することもあります。もし「ロボットは女性の家事を助ける道具」という発想にとどまれば、固定的な性役割を強化しかねません。重要なのは「ケアは社会全体で支えるもの」という認識を持ち、男女ともに恩恵を享受できる仕組みを作ることです。
ケアの未来を“共創”するために
ロボットと人間が共にケアを担う時代、女性は「ケア労働を担わされる存在」から「ケアのあり方をデザインする主体」へと変わります。テクノロジーの導入をどう活かすかは、私たち次第なのです。ケア労働の再発明を、女性キャリアの解放と社会の持続可能性につなげる──それが、これからの時代に求められる視点だと私は考えています。
